弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年2月 1日

転落自白

司法


(霧山昴)
著者 内田 博文 八尋 光秀、鴨志田 祐美 出版 日本評論社

 「日本型えん罪」は、なぜうまれるのか、というサブタイトルのついた本です。
 現実にあった間違った裁判のほとんどで、やってもいない人が「自白」をしています。この本は、やってもいない犯行を「自白」してしまうカラクリを明らかにします。
 この本の面白いところは、まず、やってもいない人が「自白」する流れを、一つの話としてまとめたところです。なるほど、無実の人がこうやって「自白」させられていくのが、読み手がぴんと来る仕掛けです。
 次に、実際にあった足利事件、富山氷見事件、宇都宮事件、宇和島事件を取りあげて問題点を解説します。警察官も検察官も、裁判官も、さらに弁護士までが、やってもいない「ウソの自白」を「ホントの自白」だと信じた。ところがひょんなことから、無実だと判断した。
 死刑判決が言い渡された事件でも冤罪事件はあった。免田(めんだ)事件、財田川(さいたがわ)事件、島田事件そして松山事件の4つ。死刑判決でも間違っていた。あやうく死刑が執行されそうになった人が少なくとも4人はいるのです。
いま、飯塚事件が問題となっています。死刑が確定して執行されてしまった人が無実だったのではないかという事件です。これは、そんな古い話ではありません。今でも、日本のどこかで無実なのにぬれ衣を着せられて泣いている人がいるかもしれないのです。
調書を中心とする供述分析は、世界中を見渡しても日本のほかには、あまり行われていない。日本の裁判は調書にもとづいてなされている。
 取り調べ場面を録音か録画されるのは、アジアでは韓国、台湾、香港ですでに実施されている。しかし、日本では、依然として取り調べ場面の全面的な可視化は実現していない。
 DNA鑑定の古いものは足利市の人口にあてはめると、同じ型の人が男性でも、100人もいるというレベルだった。ところが、新鑑定では、型が一致する確率は4兆7000億人に1人である。地球人口が70億人だとされているので、地球上に型の一致する別人はいないということを意味している。
供述調書の心理学的特性を究明する試みも紹介されています。
 犯行供述に被害者が不在であるという特徴のある供述調書は、体験記憶にもとづいて供述していると評価することは困難。
逮捕されたら、全生活を他者のコントロール下に置かれてしまう。食事、排泄、睡眠という基本的生活まで他者に支配され、自分が自由にできる範囲が大きく限局される。その結果、自己コントロール感を失う。誰も自分の無実を信じてくれる人がいないとの絶望感は、もはや無実を主張する気力を奪ってしまう。警察で認めたのに、検察庁や裁判所で否認すると厳しい取り調べをする怖い人にもどってしまうことを何より恐れる。
裁判官には、検察そして警察に対する仲間意識がある。裁判官は独立しているために孤立しがちである。
えん罪を日本からなくすために頑張っている若手弁護士との学者が、その勢いをもって書き上げた本です。広く読まれることを願います。ご一読ください。
(2012年7月刊。1900円+税)

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