弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年1月12日

「主権なき平和国家」

社会


(霧山昴)
著者 伊勢崎賢治・布施祐仁   出版  集英社

東チモールやアフガニスタンで国連代表として武装解除の仕事をしてきた伊勢崎氏は日本が真の主権国家であるなら、憲法を改定するかどうかの議論の前に日米地位協定を改定すべきだと主張しています。
これには私もまったく同感です。沖縄でアメリカがどんなにひどいことをしても、日本政府(アベ政権)は文句の一つも言わず、ただただ大金を差し出して臣下のように尽くすばかりです。これで「愛国心」教育を言いたてるのですから、あまりに情けなくて涙が出てきます。
現在の日本は、形式的には「独立国」でも、日米地位協定によって主権が大きく損なわれている。主権とは、国家が他国からの干渉を受けずに独自の意思決定を行う権利のこと。それは当然に、アメリカ人が日本国内で犯罪をおかしたら、直ちに逮捕して裁判にかけることができるはずです。
しかし、現実には、アメリカ軍の関係者はほとんど逮捕されず、訴追されることもなく、アメリカ本土へまんまと逃げ帰っています。これって、悔しくないですか・・・。まるで、日本は植民地、治外法権じゃありませんか。
強姦容疑で摘発されたアメリカ兵35人のうち、8割の30人は逮捕されていない。殺人などの凶悪犯として摘発されたアメリカ兵118人のうち半数の58人は拘束されないまま終わっている。
8年間で、アメリカ軍関係者の起訴率は17.5%でしかない。これは、日本全体の起訴率48・6%の半分以下。
しかも日本はドイツなどと違って、アメリカ軍に雇傭されているわけではない、単にアメリカ軍が契約しているだけの民間業者とその従業員(コントラクター)についてまで特別扱いをしている。
アメリカ軍は、日本全国どこにでも好きなところに基地を設定することができる(全土基地方式)。これは、アメリカが実力支配してきたアフガニスタンにもないもの。
日本が負担しているアメリカ軍の関係経費は2016年度に7642億円。このうち、いわゆる思いやり予算は、1920億円。1978年度に62億円でスタートしたものが、15年間で30倍にもふくれあがった。
たとえば、アメリカ軍の家族住宅の建設費は2900万円。これに対して自衛隊の家族用官舎は1000万円でしかない。日本が負担する在日アメリカ軍(軍人・軍属あわせて4万人)の光熱水費は247億円。これに対して、自衛隊(自衛官だけで5倍以上の22万5千人)の光熱水費は329億円。アメリカ軍はまさしく王侯貴族のように湯水のごとく使っていて、私たち日本人は税金で負担しているわけです。
そもそも、アメリカ軍は日本を防衛するために日本に駐留しているのではありません。あくまでアメリカの防衛戦略の一環として日本全国に基地を置いているだけなのに、あたかも支配者のように好き勝手に行動しているのです。
私は何もアメリカと国交断絶しろ、なんて叫ぶつもりはありません。そうではなくて、この本の著者たちが主張しているように、アメリカと対等の立場で交渉すべきだと言いたいのです。
(2017年11月刊。1500円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー