弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年11月28日

中国はなぜ軍拡を続けるのか

中国


(霧山昴)
著者 阿南 友亮 、 出版  新潮選書

中国の軍事的脅威を真顔で語る人がいるのに、私は驚きます。中国へ実際に行ってみると、とても「共産主義の国・中国」とは思えません。日本以上に資本主義国として発展しているとしか思えないのです。
なるほど、中国の「国防費」は90年代以降ほぼ毎年10%以上増え続けていて、その総額はアメリカに次いで世界第二位の規模に達している。しかし、中国の軍事力は、その内実が問題です。この本は、中国の軍事力の実体を描き、議論しています。
中国をよくみると、国家、とりわけ主権を独占していると共産党と主権へのアクセスを事実上もっていない民間社会とのあいだに根深い相互不信と緊張状態があることが分かる。
習近平政権は「7つの禁句」(七不講)を示してる。普遍的価値、報道の自由、市民社会、市民の権利、党の歴史的な誤り、特権資産階級、司法の独立。うひゃあ、司法の独立もタブーなんですね。そう言えば、中国司法官のトップがナンバー2とともに最近、逮捕・失脚しましたよね・・・。2兆円の不正蓄財というのですから、本当だとしたら、恐るべき構造的汚職構造があることになります。そんなシステムが出来ていたということでしょうから、決して一人ではやれるはずがありません。
中国の人口の6割以上を占める農村戸籍保持者は、社会保障面で制度的にないがしろにされていて、不当に厳しい生活を強いられてきた。
中華民族が太古の昔から存在したというのはフィクションにすぎず、実は100年前から提唱されているものにすぎない。
中国は、一見すると強大な国に見えるが、実はまとまりに乏しい。中国社会の内部で富の偏在が深刻化し、これが中国社会を引き裂きつつある。
中国の特権サークルにいる人々は、中国国内よりも海外にお金を落とすことを好んでいる。中国の富裕層の6割が移民の準備をすすめている。党幹部の多くは、相も変わらず権力と国有資産を駆使して大金を蓄え続けている。習政権の唱える「反腐敗」闘争も、党幹部の広範な利権を守るための巧妙な「人治」の一手段である。
中国解放軍は、実質的に共産党内の武装部門の担い手。軍隊の最重要任務は、共産党の独裁体制を防衛することにある。
解放軍の将兵は230万人。中国人民武装警察は66万人。そして人民警察が200万人。民兵部隊は400万人。合計1000万人ものボディガードによって中国共産党は守られている。
中国解放軍は戦争経験の豊富な部隊である。大躍進と文化大革命は、中国社会にあった共産党に対する高い期待と信頼を著しく傷つけた。
中国における究極の権力の源泉は、国家主席でも共産党の総書記でもなく、共産党中央軍事委員会主席である。
毛沢東は、40年間、軍隊の最高指揮権を握っていたからこそ、文化大革命という暴力の祭典を開催しえた。
中国解放軍はベトナムの民兵に対しても大苦戦を強いられた。中越戦争によって解放軍はショック状態に陥った。
鄧小平は、解放軍が部門・部隊ごとに自前で企業を設立し、ビジネスを展開することを期待した。軍ビジネスの発展は、当然ながら、解放軍の腐敗を進行させた。
解放軍の兵力は90年代以降、増えていないどころか、減り続けている。ところが人件費は増えている。そこには解放軍将兵の待遇改善をはかる意図が見えてくる。
解放軍の空軍のもつ航空機は4000機をこえている。しかし、そのうち3000機は、1950年代のソ連が開発した代物である。解放軍のもつ唯一の空母は、ソ連の空母をスクラップ状態になっていたのを解放軍が格好の値で購入して、改修したもの。
解放軍の海軍・空軍の戦力は、ようやく1980年代のソ連軍の水準にまで来たばかりということ。
共産党は、中国国内からの一党支配体制に対する異議申立を暴力で封じ込め、アメリカを中心とする同盟のネットワークに力で対抗する意図をすてない限り、党の軍隊の待遇改善と装備充実について手を抜くことができない。
最後のところに、この本のタイトルにある疑問が解明されます。中国の現在(とくに政治・社会)をふまえた的確な現状分析本だと感嘆しました。一読をおすすめします。

(2017年8月刊。1500円+税)

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