弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年11月 1日

屋上の円陣

社会

(霧山昴)
著者 山村 武彦 、 出版  ぎょうせい

本の表紙にある写真が強烈です。
南三陸町の防災対策庁舎の屋上に人々が集まって円陣をつくっています。地上12メートルの高さにある屋上です。
屋上まで津波が来ることはないと信じていた人たち、しかし、その膝上まで既に冷たい海水が押し寄せている。屋上の円陣は二つある。その一は、防災無線のポールの根元の床面より50センチほど高いコンクリート架台に上がり、ポールを中心に集まった上段の円陣。その二は、その下段に身を寄せあっている円陣。いずれの円陣も、役所のジャンバーや防寒衣を着用した職員が外側を固め、内側に住民、女性、若者を次の大波から守ろうとしている。
この防災庁舎の屋上に避難した人は54人。奇跡的に助かったのは11人。ポールにのぼっていた2人。階段上部の踊り場付近に流され鉄柵に押しつけられて助かった町長など8人の職員、屋上から流されながら、運よく水面に浮き上がり、流れてきた畳に乗って病院に漂着した職員1人。そのほかの43人が亡くなった。
襲った津波の高さは、地上12メートルの防災庁舎を上回る15.5メートルだった。だから、生き残った11人は、奇跡としか言いようがない。「奇跡のイレブン」だ。
この本は、表紙の写真と解説文を読むだけでも意義があります。
防災庁舎2階にあった危機管理課から住民へ避難を呼びかけていた二人は亡くなりました。うち一人の女性は前年に結婚し、秋に結婚式をあげる予定でした。43日目に遺体が発見されました。もう一人の男性の遺体はまだ見つかっていません。
津波は、第一波よりも第二波、第二波よりも第三波のほうが高くなることが多い。
津波、洪水、逃げるが勝ち。想定津波高さの2倍以上の高所に避難すべき。俗説に惑わされず、最悪を想定して早く非難する。悲観的に準備して行動すれば楽観的に生活できる。
奇跡的に生還した11人へのインタビューが紹介されていますが、本当に生死は紙一重の差だったと思いました。貴重な本です。
(2017年8月刊。1800円+税)

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