弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年10月11日

日本のタクシー産業

社会

(霧山昴)
著者 太田 和博・青木 亮・後藤 孝夫 、 出版  慶應義塾大学出版会

私も毎日のように利用しているタクシーについての総合的な研究書です。
タクシーの利用者が減っていること、タクシー運転手の減少はその低賃金が原因であること、65歳以上の運転手が増えていて、事故もそれに伴って増えていることなどを知ることができました。
私の知っているタクシー運転手の多くは月収(手取り)10万円台であり、20万円をこえる人は多くありません。その変則勤務は苛酷なものだと思うのですが、それに見合うだけの給料にはなっていません。
タクシー会社は果たしてもうけているのか、全国展開している会社はもうかっているのか、自動車事故に備えて任意保険には加入しているのか、事故処理はどうなっているのか、いろいろ知りたいことが生まれてきます。
タクシー利用者数は、1990年度の32億2300万人から、2009年度は19億4800万人へと4割も減っている。1987年度の33億4200万人がピーク。営業収入も1991年度の2兆7570億円をピークに減少しており、2013年度は1兆7357億円と4割減になっている。個人タクシーは4万7077台から3万6962台へ2割以上も減っている。
タクシー業界には小規模事業者が多い。車両数10両までの事業者が1万1001社(70.3%)、30両までの事業者が2540社(16.2%)で、86.5%という圧倒的多数が車両数30両までの事業者で占められている。84.6%が資本金1000万円までの事業者である。
過去には、ハンカチタクシー、書籍タクシー、共済組合タクシー、赤帽タクシーというものが存在した。私は知らないことです。
東京のタクシーについてみると、輸送人員はピーク時の1987年に4億4500万人だったのが、2014年には2億8300万人とピーク時の3分の2にまで減少している。そして、運送収入はピーク時の2007年の4770億円から2014年位3870億円と2割ほど減った。
東京では流し営業が90%と、圧倒的に多い。
戦前の1983年に8000台のタクシーがいたのが、空襲に焼け出されて、1944年には4700台になっていた。
タクシー運転手に女性は少なく、2.5%でしかない。タクシー運転手の高齢化は著しい。60歳以上が3分の2を占め、全体の4割は65歳以上となっている。
タクシー運転手の賃金水準は低く、月に24万円、年収にして310万円。これは、全産業の平均年収548万円と比べて、238万円も低い。
単純オール歩合制のタクシー会社が増えている。
タクシーでは労働時間が長いことを見逃してはならない。
かつてのタクシー業界は失業した人の受け皿として機能していた。今では、そうなってはいない。何でも規制緩和だなんて、とんでもないことです。
タクシー料金の決め方についても触れられています。
タクシーの社会経済的な実態を明るみに出した画期的な本だと思いました。タクシー業界に関心をもっている人には一読をおすすめします。
(2017年7月刊。4000円+税)

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