弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年10月 4日

危機の現場に立つ

アメリカ

(霧山昴)
著者 中満 泉 、 出版  講談社

いま国連で大活躍している日本人女性です。現在の肩書は国連軍縮担当事務次長・上級代表で、先日の国連総会では核兵器禁止条約の成立を国連の側で支えて活躍しました。スウェーデン人の外交官と結婚し、二人の娘さんは高校生と小学生。日本語、スウェーデン語、そして英語、フランス語ができるようです。頼もしい限りです。
早稲田大学を卒業していますが、途中でアメリカのジョージタウン大学に学び、国連での活動を志したようです。大学生のころから世界に目を向けていたことにも驚かされますが、なによりその行動力には敬服します。
そして、国連に入ってからは国連難民高等弁務官事務所に働くようになり、ユーゴスラビア・サラエボの「民族浄化」作戦の真只中に飛び込み、現地の軍指導者と激しくやりあったのでした。恐るべき土根性です。そして、アフリカに渡ったあと、スウェーデン人外交官と結婚し、出産、子育てし、再び国連へ・・・。その間に、日本では大学教授にもなっています。
これまでに世界115ヶ国に出かけたというのですから、さすがのアベ君も真っ青ですね。
国際的に活躍する日本人女性としては緒方真子さんが有名でしたが、今では著者がバトンを受け継いでいるようです。
私は電車に乗っている1時間で、息もつかさず集中して読了したところで終点到着となりました。叩きのめされて声が出ないほど圧倒されたのです。
いま、世界中で6000万人以上の人々が第二次世界大戦直後と同じように家を追われて避難生活を送っている。これは、世界各地で、今も戦争が絶えないことによる。
国連で仕事を始めるときに重要なことの一つは、良い上司の下につくこと。
仕事をするうえで重要なことは「誠実さ」。正直に努力を重ねて、ときには苦しみ悩みながら、自分のもっているモラル・コンパス(論理基準)を磨き育て、それを使っていろいろなことを判断し、日々、仕事を積み重ねていく。
分からないことは分からないとすぐに正直に言う。軍人に対しても、考え方や仕事のやり方に違いがあることを臆せずはっきり言う。そのうえで歩み寄る方策を考える。
イタリア軍の食事が各国の軍隊と比べると一番おいしい。フランス軍の食事には、ワインだけでなく、食後のコニャックまでついている。
軍隊と人道支援機関が一緒に活動するのは難しいもの。
国連の「中立」とは、紛争のどの当事者にも偏らないという意味の中立性。これって、現地ではなかなか難しいと思います・・・。
国連PKOで重要なのは、現場レベルでの「抑止力」、つまり暴力を起こさせない力。国連PKOは必要最小限の武力しか行使しないが、そのためには、もし必要なら武力行使をためらわないという明確な態度表明が常に必要だ。タマは一発も撃ちませんでは、攻撃してくださいというメッセージを送ることになる。この微妙なバランスが難かしい。たとえば、国連PKO部隊の兵士は反撃するにしても、なるべく下半身を狙う訓練を受けている、とか・・・。
著者は福岡の小学校にも通っていたそうです。
「母ちゃん大好き、愛してる。世界をたのむ」とは、著者への娘さんからのメッセージです。すごくいいメッセージですね。しっかり子育てしていることが伝わってきます。
いやあ、日本女性って、実に勇敢ですね、ほれぼれしてしまいました・・・。ぜひ、多くの日本の若者に世界平和のために続いてほしいものです。
(2017年7月刊。1400円+税)

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