弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年8月23日

こんなにおもしろい弁護士の仕事

司法


(霧山昴)
著者 千原 曜・日野 慎司 、 出版  中央経済社

弁護士になって40年以上もたつ私ですが、私にとって弁護士は天職、本当になって良かったと思っています。司法試験の受験生活はとても苦しく辛いものでしたが、なんとか辛抱して勉強を続け、弁護士になれて幸運でした。
大都会で3年あまり修業をして、故郷にUターンしてきましたが、それからはひたすら「マチ弁」です。狭い地方都市ですから下手に顧問先は増やせません。昔も今も利害相反チェックは重大かつ深刻です。
幸い懲戒処分は受けていませんが、懲戒請求を受けたことは何回もあります。サラ金会社から「処理遅滞」で請求を受けて、なんとかはね返したこともあります。ネット社会で法的処理のスピードが速くなっているにつれ、スマホも持たないガラケー族の身として、いつまで弁護士をやれるか心配にもなります。
40年以上も裁判所に出入りすると、いろんな裁判官にめぐりあいました。少なくない裁判官はまともに対話が出来て、尊敬すべき存在です。しかし、やる気のない裁判官、自分の一方的な価値観を押しつける裁判官、威張りちらすばかりの裁判官にもたくさん出会いました。先日も書きましたが、騙されたほうが悪いと頭から決めつける裁判官に出会うと、本当に悲しくなります。
以上は、この本を読んで触発された私の実感をつらつらと書いたものです。すみません。
この本の後半に出てくる日野弁護士は福岡で活躍している弁護士夫婦の子どもです。双子で弁護士になって、一人は広島で、もう一人は東京で弁護士をしているとのこと。なるほど、親の影響下にないほうが、お互いに気がねなく伸びのび弁護士活動を展開できると思います。福岡には親子一緒の法律事務所がゴマンとありますが、どうなのかな・・・、遠くから眺めています。
法科大学院で勉強してきた日野弁護士は、法科大学院の衰退を大変残念に思っているとのこと。私も、まったく同感です。昔の司法試験が万万才だったなんて、私には思えません。予備試験コースが昔の司法試験と同じ状況になっているのに、私は強い疑問を抱いています。
日野弁護士の仕事ぶりはすさまじいものです。前の日、午前3時まで仕事をしていて、2時間ほど仮眠をとって、午前7時25分の羽田発で福岡に向かい、福岡地裁で朝10時30分から夕方5時すぎまで証人尋問。6人の証人のうち、4人は敵性証人。相手方の弁護士も敵対的な態度なので尋問は長く、激しいものだった。
うひゃあ、す、すごーい・・・。今の私には、とても無理なスケジュールです。
ボス弁の生活は、もっとゆったりしています。平日ゴルフもあります。ただし、プレーの合い間にもメールチェックを怠らないとのこと。
顧問会社は150社。月額の顧問料収入が1000万円。う、うらやましい・・・です。でも、私は福岡市内で弁護士をしていませんので、顧問先の拡大なんて絶対にやってはならないことです。自分で自分の首を絞めるだけです。
刑事事件も、顧問先の関係で年に2、3件は担当するとのこと。これはいいことです。
民事訴訟の醍醐味は、三つある。
一つは、中身の充実した書面を書くこと。どのように説得力のある内容にするかという努力、テクニックがポイント。
二つは、どう解決するかという判断。判決をとるのが良いか、和解で解決するか、どのタイミングが良いか・・・。
三つは、どう交渉するかという交渉面。すべて、自分が主体的に絵を描いていく。裁判所の受け身ではなくて・・・。
まったく、そのとおりです。私は次回期日のいれ方にしても、自分のほうから先にリードするようにしています。そのほうが時間のムダも少なくなります。
裁判官のあたりはずれには、いつも苦労しているという文章には、まったくそのとおりなんです。
銀座でとても美味しい食事にめぐりあったとのこと。まあ、これは福岡にも、東京ほどでなくても美味しい店があると、ガマンすることにしましょう。
「こんなに面白い弁護士の仕事」は、田舎の福岡のさらに田舎にもある、このことをぜひ若い法曹志望の人に知ってほしいと思いました。
(2017年8月刊。1800円+税)

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