弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年8月 7日

サバイバル登山家

人間

(霧山昴)
著者 服部 文祥 、 出版  みすず書房

すさまじい山行記のオンパレードです。私には絶対に出来ませんし、まねしたくもありません。そんな私がこの手の本を読むのは、まさしく、怖いもの見たさ、です。お化け屋敷なんか、のぞきたくもありませんが、冬の山をほとんど何も持たずに単独行するなんて、まさしく人間技(わざ)を超えていますし、気狂い沙汰というか正気の沙汰ではありません。
山には逃れようのない厳しさがある。そこには死の匂いが漂っている。
だからこそ、そこには絶対的な感情がある気がする。
生きようとする自分を経験すること、登山のオリジナルは、そこにある。それは今も変わらない。
自分の内側から出てくる意思や感情を求めていた。厳しい現実が次から次へと降りかかってくるような窮地や、思いもよらなかった美しいものを目にしたときに、自分が何を感じるのかを知りたかった。
サバイバル登山のときは、電池で動くものは何も持っていかない。時計、ヘッドランプ、ラジオはもたない。太陽によって時間を知る。コンロとか燃料ももっていかない。マットやテントもおいていく。
最大11日間の山行にもっていく食料は、お米5合、黒砂糖300グラム、お茶、塩、胡椒だけ。タープを張って雨を避け、岩魚を釣って、山茶を食べ、草を敷いてその上に眠り、山にのぼる。
ヤマカガシ(毒ヘビ)を見つけると、頭を踏んづける。腹から溶けかけたカエルが出てきたら、この未消化カエルとヤマカガシとヒラタケを塩味のスープにする。
岩魚を釣ったら、内臓はスープ用にとっておき、卵は塩漬けにする。
岩魚は、さばいたら塩・胡椒をして、近くの枝にぶら下げておく。こうしておくと、よけいな水分が抜け出て、くん製づくりがうまくいく。
カエルは皮をむいて、毒腺から出た毒をよく洗い、内臓はごめんなさいと森に投げ、身だけをくん製にする。
夜は暗く、怖い。朝、明るくなると自然に目が覚め、ふたたび、光のもとに戻ってこれたことを感謝する。太陽の高さで時間を知り、雲の流れで天気を予想する。焚き火をおこして夜に備える。山のなかで、自分の身体がたしかに存在しているのを感じる。
サバイバル登山を経て、生きるための知識と能力が少しずつ増えているのが分かる。そして、自分が強くなった手応を感じる。
岩魚は、大物は刺身、その他はくん製にする。岩魚をさばくのも一仕事だ。ワタ(内臓)もアラも捨てない。捨てるのは、胃袋の中身とニガリ玉とエラだけ。それが岩魚への礼儀だ。
岩魚のくん製は、保存のきく行動食であり、おかずであり、味噌汁の出汁でもある。カエルは、おやつ専用だ。
岩魚を焚き火でくん製にするとき、3種類ある。汁っ気の多い塩焼き、しっとりとしたくん製、カリカリの焼き枯らし。
乾いた衣服と寝袋そして雨をさえぎってくれる空間があれば、そう簡単に人は死なない。
行動用の服と泊まり場用の服を分けておく。泊まり場用の服とは、毛の下着、ステテコとラクダのシャツ。完全防水を可能するビニール袋が必携。
朝は5時半から6時のあいだに出発する。そして午前9時を過ぎるまでザックはおろさないし、何も食べない。午前9時を過ぎたら1時間ごとに休みはじめ、ちょくちょく何かを食べる。昼の12時から14時までに、その日の泊まり場を決める。
いやあ、すごいですね、こんな登山家がいるのですね。恐れいりました。
(2015年12月刊。2400円+税)

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