弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年7月14日

子どもたちの階級闘争

イギリス

(霧山昴)
著者 ブレィディみかこ 、 出版 みすず書房

3歳児、4歳児でも、ちゃんと自己主張するし、できることも良く分かる本です。
イギリスの保育園で働く日本人女性がイギリスの保育事情を紹介しています。イギリスって、まさしく昔も今も階級社会なのですね。日本だと、それが見えにくいわけですが、イギリスでは、あからさまのようです。なにしろ、住んでいる地域が異なるし、コトバだってはっきり所属階級の違いが分かるというのです。そして相互に深く交流することはないのです。日本人として不思議な気がします。ええっ、英語って、ひとつじゃないの・・・。まあ、「マイフェアレディ」を思い出せばよいのでしょう・・・。
私立校で教育を受けたミドルクラスやアッパークラスの人々は、BBCのアナウンサーのような明瞭な英語を話す。対して、労働者階級の人々は、地域色豊かなアクセントになり、下層に行けば行くほど、単語の最後の音をいい加減に発音する。だから、イギリスは、口を開けば属している階級が分かってしまう。
イギリスの保育園に2歳児をフルタイムで預けると、1ヶ月で14万円もかかる。それで、イギリスの保育園はミドルクラス家庭の御用達施設と呼ばれている。
保育園は、下層幼児たちの受け入れを拒否している。幼児教育現場での階級分離が進んでいる。貧困エリアにおける肥満している子どもの割合は、少年の場合は豊かな地域の3倍、少女の場合には2倍になる。
イギリスの裕福な家庭は子どもパブリックスクールと呼ばれる私立校に通わせる。年間学費が300~400万円かかる。
貧しい人々は、家賃の安い地域、つまり地域の学校が荒れているので、親たちが敬遠する地域に住むことになり、富める人々と貧しい人々の居住地域の分離が進んでいる。
貧民街の子どもたちは、保育施設から小学校、中学校と一貫して貧しい地域の、自分と同じような階級の子どもたちに囲まれて学ぶことになり、上の階級の子どもたちと知り合う機会はもちろん、すれ違うことすらない。
人間は、希望をまったく与えられずに欲だけ与えられて飼われると、酒やドラッグに溺れたり、四六時中、顔をつきあわせなければならない家族に暴力をふるったり、外国人とか自分より弱い立場の人々に八つ当たりをしに行ったりして、画一的に生きてしまう存在だ。それは、セルフ・リスペクト(自己尊重)を失うからだ。
イギリスでも、フランスのル・ペンのように反移民・EU離脱を唱える右翼が伸長している。それは、イギリスにEU圏からの移民が急増しているから。
2011年の国勢調査では、イギリスで生まれる子どものうち、少なくとも両親の一人が外国人である子どもの割合は全体の31%で、2001年より10%も増加している。両親とも外国人だという子どもも18%いる。
アフリカや中東そしてアジアから来た移民の親たちは、決まって、イギリスのアンダークラス民、「ホワイト・トラッシュ」と呼ばれる人々が大嫌いだ。子どもを厳しくしつけず、やりたい放題にさせているから、この国、イギリスはダメになったと高言する。移民の多くは、勤勉で上昇志向の強い人々だ。イギリスの食べ物はおいしくなったが、それは、これらの人々のおかげだ。 
イギリスは、もともとワーキングクラスという階級が誇りをもって生きてきた国である。終戦直後に、労働党政権は、無料の国家医療制度を実現し、公営住宅の大規模建設、大学授業の無料化など、底上げの政策を徹底的にすすめた。その効果が一斉に花開いたのが、1960年代だった。
ところが、このエキサイティングな階級の流動性は、もう遠い過去の話になった。今では、間違っても、下層階級の人間がそこから飛び出す可能性は支えられていない。
現代のイギリスは階級が固定化しすぎている。格差の拡大はよくないが、どんなにがんばっても、自分たちが再びクールになる時代は来ないという閉塞感が下層にいる人々を絶望させる。
そんななかで保育園を運営し、一人ひとりの子どもたちを保育していくのですから、日々まさしく困難の連続です。移民をどんどん日本に受け入れたときには、保育園だけでなく、社会の隅々まで、貧困と身の安全を守るために考え、行動しなければならないことがたくさんあることを実感させてくれる本でもありました。
(2017年6月刊。2400円+税)

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