弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年7月 8日

植物はそこまで知っている

生物(植物)


(霧山昴)
著者 ダニエル・チャモヴィッツ 、 出版  河出文庫

じっとしていて動かないように見える植物が、実は動いていて、意外に賢い存在だと認識を改めさせられる本です。
遺伝子という観点で比べると、植物は動物よりも複雑であることが多い。
植物は中枢神経系、つまり体全体の情報を調節している「脳」は存在しない。それでも、植物は環境に最適化するよう、各部位を緊密に連携させて、光や大気中の化学物質、気温などの情報を根や葉、花、茎で伝えあっている。
植物は、さまざまな方法で光を見ている。それは、人間の見えない色まで見ている。
植物に屈光性が生じるのは、植物の苗の最先部が光を見て、その情報を中央部に伝えて曲げさせるため。
植物は光を浴びている時間を測っている。植物の視覚は、ヒトの視覚よりも、ずっと複雑だ。植物にとって、光とは単なる合図以上のもの、食料そのものだ。植物は光を使って、水と二酸化炭素を糖に変える。受けとる器官が異なるだけで、植物もヒトと同じく、光を感知している。
植物は、匂いを嗅いでいる。古代エジプト人は、イチジクの実を収穫したあと、まず2個か3個に深い切れ目を入れておくと、残りの実すべてが熟すことを知っていた。それはエチレンガスがもれ出して、ほかのイチジクの完熟を促したのだ。
ネナシカズラは、明らかに匂いを嗅いで食べ物を探している。
葉を食べる昆虫が襲来すると、木々は、互いに警戒しあっている。
植物は、病原菌やウィルスの攻撃を受けたときにサリチル酸をつくる。植物にとって、サリチル酸は、免疫機構を増強する「防御ホルモン」だ。
植物は触覚を感知できる。オジギソウの葉の基部には葉枕(ようちん)という膨らんだ構造があり、その中に葉枕細胞という、運動細胞がある。ここに電気信号が作用すると、オジギソウの葉は垂れる。筋肉がなくても葉枕は葉を動かしている。
シロイヌナズナは、1日に数回、人の手でさわられると、何もしないシロイヌナズナに比べて、草丈がずっと低く、開花もうんと遅れる。
植物は聞いている。
植物は、地面に対して垂直に育っているのか、斜めに育っているのかを知っている。
この本を読むと、植物について、まったく誤解していたとしか言いようがありません。知的刺激にあふれた本です。
(2017年3月刊。800円+税)

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