弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年5月25日

いのちの証言

ドイツ

(霧山昴)
著者 六草 いちか 、 出版  晶文社

ナチスの時代をドイツ国内で生きのびたユダヤ人、それを支えた日本人がいた、この二つをドイツに住む日本人女性が実例をあげて紹介した本です。
ベルリンには、かつて16万人以上のユダヤ人が暮らしていた。たとえば電話帳にユダヤ人特有の名前であるコーン姓の人は、1925年版では5頁、1300世帯がのっていた。ところが、1943年版には、わずか28世帯でしかなかった。
終戦まで生き残ったユダヤ人は、わずか6千人だった。そのうち2千人は、ドイツ人の妻や夫や親をもっていた人たち。ゲッペルスのユダヤ人一掃作戦に抗議したドイツ人女性たちによって救われた。残る4千人は、市民が個人的に隠し通した人たちだった。
そして、実は、ベルリンにあった在独日本大使館にもユダヤ人女性がいて、大使館が守っていたというのです。
ドイツ人の女性タイピスト2人は実はユダヤ人だ。あえて日本大使館は、彼女らを雇用していた。ドイツ人が日本大使館に雇われていたら安全だと承知して頼み込んできた。そういうドイツ人は、反ナチ、反ヒトラーの感情をもっていた。
近衛文麿の弟である近衛秀麿は、オーケストラの指揮者としてドイツでも活躍していた。その近藤秀麿は、ユダヤ人家族の少なくとも10家族の国外脱出を助けた。優秀、有能な人を輩出したユダヤ人をヒトラー・ドイツは抹殺しようとしていたわけですが、日本が何人も身を挺してその救出にあたっていたことを知ると、身体が震えるほど、うれしくなります。
ところが、最近、日本のなかで「日本人で良かった」とかいう変なポスターを貼り出す日本人がいるというので、呆れて反吐が出そうです。中国人や韓国人を見下して、日本民族は優秀だ。なんて、まるで馬鹿げた考えです。その心の狭さには開いた口がふさがりません。
弱者いじめをする人は、幼いころから親と周囲から大切に育てられてこなかった、愛情たっぷりのふりかけごはんを食べられなかった気の毒な人たちだという分析がありますが、私もそうだと思います。でも、気の毒な人たちだと哀れんでいるだけではすみません。彼らが害毒をたれ流すのは止める必要があります。
「みんな違ってみんないい」(金子みすず)
「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」(日本国憲法前文)
日本国憲法って、ホント、格調高いですよね。それに比べて、自民党の改憲草案は信じがたいほど下劣です。
(2017年1月刊。1900円+税)

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