弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年5月 5日

人間力を高める読書法

社会

(霧山昴)
著者 武田 鉄矢 、 出版  プレジデント社

私は年間500冊以上の単行本を、この30年以上よんでいます。でも、それは私の人間力を高めようと思ってしていることではありません。基本は知的好奇心です。次から次に、世の中のことを知りたいと思って、本を読み漁っています。知れば知るほど、知らないことが世の中にいかに多いか、愕然とする思いなのです。
著者は私と同じ福岡県生まれで、私より一学年だけ下になります。もちろん、例の「タバコ屋の息子」のバラードは好きな歌ですし、『幸福の黄色いハンカチ』は泣けました。ですから、何年か前に、夕張に行き、現地にも立ってきました。
歌に劇に大活躍していることは私も知っていました(テレビは見ませんので、実は活字を通して、ということですが・・・)。ところが、この本によると、なんと23年間もラジオのパーソナリティをつとめて、ほとんど毎日、よんだ本を解説しているというのです。すごいですね。敬服します。
「この組を本にしないのは文化的損失です」という口説き文句で本になったとのことですが、この本の密度の濃さは半端ではありません。読書家を自称する私もついタジタジとなってしまいました。
ちなみに、私の書評コーナーも、9.11の年(2001年)に始めましたので、もう16年たっています。ところが、誰も「本にしなければ文化的損失になる」とは言ってくれません。トホホ・・・。
この本の圧巻は、私も書評で紹介した『狼の群れと暮らした男』(築地書館)です。
オオカミにさわられて育てられたという「狼少年・少女」の話はインドにありますが、青年男性が狼の群れに飛び込んでいって、受け入れられる過程が描かれている本ですので、その迫力にはド肝を抜かされます。少しでも犬に関心のある人には強く一読をおすすめしたい本です。
この本を著者はコメント付きで詳細に紹介しています。まさしく、ありえない過酷な状況に自らを置いて厳しい試練を受けるという、信じられない話なのです。この本は、この部分を読むだけでも大いに価値があります。
ノモンハンそしてミッドウェー海戦における日本軍の大失敗も著者は紹介していますが、この大失敗を今、安倍政権の暴走を止めきれなかったときには、現代に生きる私たちは同じ大きな過ちを繰り返すことになるでしょう。
この本の出だしは、「1行バカ売れ」です。なるほど、キャッチコピーは偉大ですよね。
著者の知的レベルの高さには完全に脱帽でした。この本を読んで、私の人間力が少しくらいは高まったかな・・・。
(2017年3月刊。1300円+税)

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