弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2017年4月14日

住友銀行 暗黒史

社会

(霧山昴)
著者 有森 隆 、 出版  さくら舎

こういう本を読むと、つくづく銀行なんかに就職しないで良かったなと思います。
ノルマ競争とか出世競争というのはどんな企業にもあることでしょうが、暴力団やアングラマネーの世界との深いつきあいまでいったら、類似しているのはゼネコンくらいでしょうか。
前に『住友銀行秘史』(國重惇史)を読みましたが、この本によると、住銀、イトマン事件の真相を巧妙に避けているというのです。そして、國重の本は「住友銀行は被害者だ」というトーンで貫かれているが、著者は住友銀行は被害者ではなく、事件の共同正犯だと断言しています。
住友銀行かイトマンに融資したお金のうち6000億円もの巨額の資金の行方は、今もって謎に包まれたまま。いや、6000億円プラス3000億円という、1兆円に近い巨費が闇に沈んだ。
住友銀行は不動産投資を名目にイトマンに多額の資金を投入した。イトマンを迂回して、このカネは伊藤寿永光、許永中、さらには暴力団関係者など闇の世界に消えた。暴力団に斬り込むのは、身の安全を考えると銀行員にとってもタブーだろうが・・・。
バブルの時代、東西に二人の経済ヤクザの巨頭がいた。東に石井進・稲川会二代目会長。西が宅見勝・山口組若頭。この二人の経済ヤクザと住友銀行をつなぐフィクサーは、東が佐藤茂・川崎定徳社長、西がイトマン事件の主役・伊藤寿永光だった。
磯田一郎は、1977年に住友銀行の頭取になり、1983年に会長就任。実に13年の長きにわたってトップとして君臨し、「磯田天皇」と呼ばれた。
土地は必ず値上がりするという「土地神話」のメカニズムが作動していた。住友銀行は、担保掛け目を80%にした。そして、どうしても融資したい案件には、100%にした。
1990年3月期の住友銀行の貸し出し金利息は1兆9300億円。第一勧銀の1兆9100億円、三菱の1兆7800億円、富士の1兆8100億を上回り、トップだった。
磯田流人事は、ナンバー2を切るということ。そして、「表のカード」と「裏のカード」とを使い分けた。自ら手を汚さず、ダーティーな役回りを担わせる「汚れ役」をいかにうまく使うか。
まさしく、すまじきものは宮仕えの世界ですね。
そして実力をもつに至った「裏カード」は、いずれ疎ましくなって放り出されてしまう。
仕手集団が狙うのは、創業者以外に頼れる人材のいない会社だ。
磯田一郎会長が辞意を表明したのは、1990年10月7日。その2日前に、住友銀行の青葉台支店長・山下彰則が出資法違反で東京地検特捜部に逮捕された。株の仕手集団・光進の小谷光浩代表への融資を不正な方法で斡旋したという容疑だった。
住友銀行、イトマンの経営者のほとんど全員が地上げや株上げで巨利をむさぼっていた。いわば、バブルの共犯者である。
1994年9月、住友銀行の取締役であり名古屋支店長だった畑中和文氏が自宅マンションの廊下で射殺された。真犯人は今に至るも捕まっていない。
この本は、最後に、日経新聞やNHK記者が当事者のように行動していたことを厳しく批判しています。安倍首相と高級飲食店で食事をともにしているジャーナリストがあまりに多くて、幻滅しています。権力や財界にかかえこまれることなく、距離を置いて、あくまで国民目線で報道してほしいものです。
たしかに、國重本よりも読みごたえがありました。
(2017年2月刊。1600円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー