弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年12月19日

がん(上)(下)

人間

(霧山昴)
著者 シッダールタ・ムカジー 、 出版  ハヤカワ・ノンフィクション文庫

癌についての分厚い上下2冊の文庫本です。
今では多くの癌が死に直結するものではなくなりました。人類の英知の結晶です。この本は、現在に至るまでの医学の進歩をたどっています。
私は、この本を読みながら、人間の身体の神秘性をつくづく実感しました。なにしろ、人間の身体では、いろんな化学的成分がつくられているのです。それを現代科学が少しずつ解明しているわけですが、その対象は、なんと私たち人間の身体の奥深いところでつくられている各種成分なのです。
がんは単一の疾患ではなく、多くの疾患の集まりである。それをひとまとめにして「がん」と呼ぶのは、そこに細胞の異常増殖という共通の特徴があるから。
白血病は、がんのなかでも特別だ。その増殖の激しさと、息を吞むほど容赦のない急速な進行を示す。白血病は、ほかのすべてのタイプのがんと異なっている。白血病にとって、6ヶ月生存したというのは、6ヶ月はまさに永遠とも言うべき長い期間だ。1934年7月、マリーキューリーは白血病で亡くなった。
がん細胞は、正常細胞の驚異的な異形であり、がんは目を見張るほど巧みな侵略者かつ移住者だ。がんでは、無制御の増殖が次々と新しい世代の細胞を生み出していく。
がんは、今日、クローン性の疾患だということが判明している。しかし、がんは単なるクローン性疾患ではない。クローン性に進化する疾患なのだ。変異から淘汰、そして異常増殖という、この冷酷で気の滅入るようなサイクルが、より生存能力の高い、より増殖能力の高い細胞を生み出していく。
平均寿命ののびは、たしかに20世紀初頭にがんの罹患率が増加したもっとも大きな要因だった。
近代的な冷蔵庫が普及し、衛生状態が改善して集団的な感染が減少したため、胃がんの流行は見られなくなった。
がんの全身治療は、あらゆる肉眼所見が消えたあとも、長期間にわたって続けなければならないのが原則だ。
乳がんについて、根治的乳房切除術を受けた患者グループは、重い身体的代償を支払ったにもかかわらず、予後に関してなんの利益も得られていないことが1981年に判明した。今日、根治的乳房切除術の施行は、ほとんどない。
前立腺は、恐ろしいまでのがんの好発部位だ。前立腺がんは、男性のがんの3分の1を占める。これは白血病とリンパ腺の6倍だ。60歳以上の男性の剖検では、3人に1人の割合でなんらかの前立腺の悪性所見が発見される。進行はとても遅く、高齢男性は、前立腺がんで亡くなるのではなく、前立腺がんとともに亡くなることがほとんどである。
たばこと肺がん発症は30年近くも開くことがある。たばこメーカーは、新たな市場として発展途上国を標的にしており、今では、インドと中国における主要な死因はたばこである。
ヘリコバクター・ピロリの除菌は、若い男女で胃がんの罹患率を減少させたが、慢性胃炎が数十年も続いている高齢患者では、除菌療法の効果はほとんどなかった。
エジプト古代王国の時代から、まさしく4000年の歴史をもつ癌治療進化する状況の到達点が実に刻明に紹介されています。
(2016年7月刊。920円+税)

韓国映画『弁護人』をみました。盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領が釜山(プサン)で弁護士として活躍していたときを描いた映画です。韓国では1000万人がみたとのことですが、大変な迫力があり、あっというまに2時間がたっていました。
 主人公のソン・ガンホは、まさしく法廷で不条理を許さないと吠えまくります。見習いたいド迫力でした。
 アイドル・グループのメンバーが拷問を受ける大学生役として登場してきます。彼がやったのは、女子工員を集めた、ささやかな読書会です。私も大学生のころセツルメント活動のなかで、「グラフわかもの」という雑誌の読者会をしていたことがあります。職場の話がどんどん出てきて、大学生の私のほうが聞き役でした。そんな活動をしていると、アカだとして拷問され、国家保安法違反だというのです。
 法廷の内外で裁判官と検察官は仲間として親しく交流しています。憲法も刑事訴訟法もそっちのけで、権力の忠実な番犬としての役割を競って果たしているのです。これって、日本でも同じようなものですよね。
 権力に真向から対決できる弁護人の存在が欠かせないことを明らかにした映画です。ぜひご覧ください。

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー