弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年12月15日

黒い司法

アメリカ

(霧山昴)
著者 ブライアン・スティーヴンソン 、 出版  亜紀書房

この本を読むと、アメリカのような国になってはいけないと、つくづく思います。
アメリカは収監率が世界一高い。総受刑者数は1970年代の初めに30万人だったのに、今は230万人までふくれあがっている。執行猶予中や仮釈放中の人は600万人。
2001年にアメリカで生まれた子どもの15人に1人は、やがて刑務所に行き、今世紀中に生まれた黒人男性の3人に1人が将来投獄される計算だ。
いま死刑囚監房で刑の執行を待つ死刑囚は数千人。
25万人もの子どもたちが成人用の刑務所に送られて長期刑に服している。そのなかには12歳以下の子どもさえいる。3000人近い子どもたちが終身刑を言い渡された。
アメリカは、少年に対して仮釈放なしの終身刑を科すことのできた世界の唯一の国家だ。
薬物犯罪で刑務所に収監されている人は、1980年に4万1000人だったのが、いまでは50万人以上になっている。
アメリカの刑務所にかかるコストは、1980年に69億ドルだったのが、現在は800億ドル。そこで、民間の刑務所建設会社や施設サービス会社は、州政府や地元自治体に何百万ドルと献金して、新たな犯罪を創出し、より厳しい判決を言い渡し、塀のなかにもっと人を閉じ込めろと彼らを説得して、さらにもうけようとしている。
民間企業の利潤追求のせいで、治安を良くし、大量投獄のコストを減らし、そして何より受刑者の更生を促進するという方向に向かうべきサイクルが絶ち切られている。おかげで州政府は公共サービスや教育、医療福祉の予算を刑務所事業に割り振っている。その結果、かつてないほどの財政危機にある。
黒人の死刑囚は、そのほとんどが、全員白人かほぼ白人ばかりの陪審による評決を受けていた。黒人は陪審から排除されてきた。
アラバマ州は、すべての判事をきわめて競争の激しい党派選挙で選んでいる。このような州は、アメリカ全体で6州のみ。
海外の戦争からの帰還兵は戦争のトラウマをかかえて地元となり、刑務所行きになることが多い。1980年代半ばまで、刑務所人口の20%が戦争経験者だった。ひところは、この割合は低下していたが、イラク・アフガニスタン戦争の結果、再び上昇している。
子どもの死刑を認めている国は、アメリカのほか、いくつかしかない。
アラバマ州は、ほかのどの州よりも、世界中のどの国よりも人口あたりの少年死刑囚の割合が高い。アラバマ州では、殺人の被害者の65%が黒人であるのに対して、死刑囚の80%が白人が被害者となっている。
フロリダ州では、2010年までに、殺人ではない暴行罪で起訴された100人以上の子どもが仮釈放なしの終身刑を言い渡された。そのなかには13歳もいた。
13歳とか14歳で終身刑を受けているのは、全員が黒人かヒスパニック系。
アメリカでは、1994年から2000年にかけて子どもの人口が増加したにもかかわらず、少年の犯罪率は下がった。「スーパープレデター」(超凶暴な野獣)が到来するという予言はまったくの間違いだった。
アメリカの刑務所は、いまや精神障害者の「人間倉庫」と化している。大量投獄の主たる要因は誤った薬物政策と過重な量刑にあるが、貧困者や精神障害者をむやみに強制収容したことも、受刑者の記録的増加を招いた原因になっている。
2002年、連邦最高裁は知的障害者に対する死刑を禁止した。知的障害をもつ死刑囚は全国で100人。
2005年、連邦最高裁は子どもの死刑を禁じたが、そのとき死刑囚監房にいた子どもの既決囚は75人ほど。
アメリカでは、女性囚人が1980年から2010年まで646%も増えた。これは男性の増加率の1.5倍。全国で20万人もの女性が収容されており、100万人以上の女性が監視・管理下に置かれている。これらの女性受刑者の3分の2は、ドラッグや窃盗などの軽罪で入っている。女性受刑者の80%近くに未成年の子どもがいる。母親が収監されると、子どもたちは暮らしにくくなる。
いやはや、大変な国ですよね、アメリカという国は・・・。過度の重罰化は、こういう状況を生み出すわけです。寒々とした光景ですが、この本は、そのなかでも果敢にたたかっている弁護士によって書かれていますので、そこに救いがあります。
(2016年10月刊。2600円+税)

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