弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年11月 5日

きばれ長崎ブラバンガールズ

社会

(霧山昴)
著者 藤重 佳久・オザワ部長 、 出版 学研 

福岡の精華女子高校の吹奏楽は私も一度だけ見聞したことがあります。そのマーチングしながらの吹奏楽には、つい見とれてしまいました。その精華女子高の吹奏学部を全国屈指の名門校に押し上げた指導者が定年退職し、長崎の活水高校に移り、そこでも吹奏学部を指導して、またたく間に九州大会を勝ち抜いて全国大会へ出場したというのです。すごいです。
この本には、そこに至る苦労が女子高校生たちの思いとともに明かされています。読み物としても、本当によく出来ています。幕明け前の心理状況そして、演奏が始まってからの音楽の推移が豊かに再現されていきます。その筆力にも圧倒されます。
その指導者の名前は、藤重佳久。実は初心者が大切。演奏は半年がんばったら、どうにか一人前まで成長できる。先輩が初心者の面倒をみることで、バンド全体の力が上がってくる。人間関係も良くなる。初心者でもやれるという可能性を生徒にも周囲の人々も見せてやりたい。
活水には、精華からの転校生もいたし、東京からやってきた生徒もいた。そして、人数が足りないのを中学生が補った。
マーチングは体を動かすので、非常に健康的。そして動きを視覚的にとらえられる。これは重要なこと。座奏は基本的に音だけで、聴覚の世界。目には見えない。形もなければ、言葉も、具体的なものもない。ところが、マーチングでは、音楽と連動した動きによって、視覚と体で具体的に取り組むことができる。生徒の姿勢も表情も良くなる。それに、お客さんも喜んでくれる。やはり動きがあったほうが目で見え楽しめるし、分かりやすい。
つくろうとしているのは、うねるような、しなやかな音楽。
音楽はデジタルではない。一定でないところに音楽の面白さ、人間らしさがある。
コンサートでは、まず演奏者が楽しんで演奏すること。そして、作品を完成させ、その感動を観客に伝え、楽しんでもらう。これが何より大切。
コンクールも、コンサートのように人を楽しませ、自分たちも楽しむ。これが基本。
笑い顔がいい。それは、口のまわりの筋肉をもっともうまく使える形だから。演奏が非常にフレキシブルで楽になり、ハイトーンも低い音も出るようになる。
演奏が上手な生徒は、生活態度もきちんとしていて、真面目。上手な人のやり方を真似ること、観察して盗んで自分のものにすることが必要。
コンクールで良い成績を収めるより、人柄の良い人間として育ってほしい。そのためには、たくさんの人間のなかでもまれる必要がある。社会に出てからでは遅い。
相手が喜ぶ演奏をする。相手に伝わる音楽をすることが大切。思いやりがあるから、良い演奏ができる。
女子高生に接するときには、決して嫌われないこと、必ず平等に接すること。まんべんなく全員に目配りし、差をつけず、一人ひとりに声をかけるのが大切。
良い音楽を奏でる生徒は共通している。性格が明朗活発で、元気がいい。声も大きい。それだけ日常においても表現力が豊かだ。日常の表現力と音楽の表現力はリンクしている。
ここまで読んでくれば、いちどぜひ活水のブラスバンドとマーチングを見て聞きたいですよね。読んで元気の出る、いい本でした。
(2016年5月刊。1300円+税)

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