弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年11月 3日

「その日暮らし」の人類学

アメリカ

(霧山昴)
著者 小川 さやか 、 出版  光文社新書

東アフリカのタンザニアで15年にわたって零細商人に密着し、そのタンザニアの町での商慣行、商実践そして社会関係を調査している日本人(女性)学者のレポートです。
ところ変われば、品変わると言いますが、日本人にはとても理解できない状況です。そこでは、日本人の一般常識はまったく通用しません。
タンザニアでは、一つの仕事に収入源を一本化するのは、リスキーなことである。
タンザニアの人々のもつ事業のアイデアは、その後の人生において実現することもあるが、少なくとも、その実現が一直線に目ざされることはない。
タンザニアの都市住民にとって、事業のアイデアとは、自己と自身が置かれた状況を目的、継続的に改変して実現させるものというより、出来事、状況とが、その時点でのみずからの資質や物質的、人的な資源にもとづく働きかけと偶然に合致することで現実化する。
このような仕事に対する態度は、彼らの危機的な生活状況を反映している。彼らは一方で、計画を立てても、本人の努力ではどうにもならない状況に置かれている。
計画的に資金を貯めたり、知識や技能を累積的に高めていく姿勢そのものが非合理、ときには危険ですらある。
「明後日の計画を立てるより、明日の朝を無事に迎えることのほうが大事だ」
一日くらい食事を抜いても、同じ境遇の仲間がいて、明日を語りあうことが楽しいと思えるし、重労働をこなせる自らを誇りに思うことができる。
広告産業が未発達なタンザニアでは、流行がコントロールされていないので、消費者の需要・嗜好の多様性はゆっくりとしか変化していかない。
タンザニアでは、2000年ころから、中国に渡航して商品を買いつける商人が急増している。国の法や公的な文書は価値をもたず、香港や中国に商人本人が出向いて、みずから対面交渉をし、そこで取引の詳細と輸送までの手続をたしかめる。そうしなければ騙されやすい。人々は大企業の権威を無視し、具体的な人間との関係性でしか動かない。対面的な関係こそが信頼できるすべてである。
旅行者扱いで短期的に中国・広州に入ってくるアフリカ人は年間20万人にのぼる。
中国のコピー商品は、消費者の心を動かす価格にまで一気に引き下げ、そこから売れた商品の価値を徐々につり上げていく。
アフリカでは、今、ケータイによる送金サービスが発展している。これは、銀行のサービスを利用できない人でも、利用できるので、どんな奥地の農村部でもつかわれている。
いやあ、目を大きく開かせられる思いのする、面白い本でした。著者は、よほどアフリカ、タンザニアの現地に溶け込んでいるようです。アフリカの人々の物事の考え方を理解するに役立つ本だと思いました。
(2016年7月刊。740円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー