弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年10月10日

古文書の語る日本史(7)

日本史(戦前)

(霧山昴)
著者  林 英夫 、 出版  筑摩書房

 江戸時代の文書がよく保存されていることに驚かされます。もちろん戦災にあって焼けたのもたくさんあるとは思いますが・・・。日本人が昔から書くことを大切にしてきたこと、識字率が高かったことを反映していると思います。
先日の映画『殿、利息でござる』は仙台藩のなかでの実話にもとづいていることを紹介しました。この本にも、似たような話が出ています。
尾張国でのこと。村内の有力者を語らって金銭を集め、貧民に支給するという「民恵銭(みんけいせん)」運動が実践された。言葉だけでなく、「恵(めぐみ)」(金銭)を支給して貧民を救済することが先決であることを村内の高持(たかもち)層に説き、毎月の集金積立をもって、天明元年(1781年)10月から80人の貧者に頭(かしら)百姓16人の出金と、67人の貸主の利子捨(すて)のもとに76両1分と890文の基金からスタートして、救い方を実践した。
 また、天明2年からは、木曽川の修築事業を「自普請」と称して村々の篤志家の協力を得て、いわば「民力」による改修事業をしている。それは窮民に職を与え、なんらかに日雇賃銭を得されるために、篤志家たちを集め、貧窮する農民たちに篤志者みずから賃銭を支給して人を集め、普請場に行って改修作業に参加することだった。普請場に2千余人の人々が集まり、にぎにぎしい「御冥加普請」がなされた。そこに藩主宗睦も鷹狩に託して工事現場にやってきて、床几に腰をおろし、責任者に酒をやった。
いやはや、まるで先の映画の世界です。すごいことをしていたのですね・・・。
 一揆のときにも「扱い人」と称する仲裁・調停人が仲介して紛争を収拾したという話も紹介されています。江戸時代というのは、まことに奥の深い社会だったようです。単に暗黒時代として忘れ去るべきではありません。本棚にあった古い本を読み返しました。
(1989年10月刊。3300円+税)

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