弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年9月29日

銀行員30年、弁護士20年

司法

(霧山昴)
著者  浜中 善彦 、 出版  商事法務

 著者が大学を卒業して銀行に入ったのは昭和39年。東京オリンピックのあった年です。私が高校に入学した年でもあります。
 そのころ、銀行の総務部には総会屋が「毎月の給料」をもらいに来ていたというのです。銀行のトップは昔から黒い世界と交際していたのです。そして、インサイダー取引も半ば公然と行われていたとのこと。今ではまったくない、と果たして言い切れるのでしょうか・・・。
 著者は融資課長のとき、毎日、夕方6時前には退社していたとのこと。これって、すごいことですよね。でも、これでは、恐らく出世はしなかったでしょうね。
 管理者として、もっとも力を入れたのは、部下の教育。接客の際、相手に失礼がないよう言葉づかいに注意する。部屋の出入りの順序や席順等にも目を配らせた。
 銀行の有担保貸出は、長期貸付金の場合であり、短期貸付金は無担保が原則。銀行は担保にお金を貸すのではない。
銀行員としての経験から、大企業とは、無駄が多いほど大企業であると思う。大企業の特徴として、コピーや紙の消費量が多い。いまでは、ネット活用によって、ペーパレス化は進んでいるのでしょうか・・・。
 著者は43歳のとき、経営相談所へ配属された。窓際の仕事である。ところが、著者はこれをチャンスだと考えたのでした。
銀行員になって20年仕事をしてきて、はじめて定時出勤、定時退社の部署に来ることができた。さあ、与えられて時間を、どうするか。よくよく著者は考えたのです。水泳を始め、座禅をし、司法試験に挑戦することにしました。
 資格を取ることに限らず、何かを達成しようとするとき、もっとも重要なのはモチベーション。動機と目的と工夫がなければ勉強時間をつくり出すこともできない。日本一難しい試験に挑戦してみよう、定年後は、銀行が決めた人生ではなく、自分でも選択肢をもちたいというのが動機だった。
 いかに勉強時間を確保するか。そのためには極力、無駄な時間を省くことが必要になる。スケジュール管理の方法として、目的別に3冊の手帳を使うことにした。
 スケジュール管理で大切なことは、単に予定を立てるだけでなく、記録すること。そして、記録した結果をチェックし、今後の計画の参考にする必要がある。次に、確保した時間を、いかに有効活用するか。
学者の解説は、予備校の講師とは全然比べ物にならない。予備校の講師の解説は、一旦極めて明快なようだが、これは問題を単純化して説明しているからなので、まるきり深みに欠ける。
かばんには、まとまった時間が出来たときに読む本と、細切れの時間に読む本の2種類を入れている。
私の場合には、カバンの外側には、ホームの待ちあいでも読めるように絶えず新書を入れています。電車のなかでは部厚い単行本を読みます
 著者は54歳で30年勤めた銀行を定年退職しました。定年が54歳だなんて、早すぎますよね・・・。
平成7年に和光の司法研修所に入った。730人の合格者があり、12クラスで、1クラス60人ほど。
サラリーマンになれないような弁護士は、弁護士としても無能だと思う。
私にとっては耳の痛い言葉です。私は、とてもサラリーマンには向いていないと思うからです。
 プロフェッションといわれる医師、聖職者および法律家の共通点は、いずれも何らかの形で人間のもつ悩みの解決に奉仕する職業であるということ。医師は肉体的悩みの解決、聖職者は精神的な悩みの解決が本来の任務である。法律家は、人間関係から生ずる紛争の解決をその任務とする。
職業としての弁護士は、決して気楽ではない。むしろ、精神的には、かなりストレスのかかる職業である。受任事件から来るプレッシャーは大きい。
弁護士にとって大事なことは信頼関係である。しかし、そのことは依頼者の言いなりになればいいということを意味しない。依頼者を説得するのも弁護士の役割。しかし、他人を論理で説得することはできない。人が他人の意見に納得するのは、論理ではなく感情による。 
弁護士の仕事のいいところは、仕事を通じて、常に社会との接点があること。
さすがは人生の大先輩です。いかにも含蓄深い言葉ばかりでした。
著者の、今後ますますのご健勝を祈念します。
(2016年7月刊。2700円+税)

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