弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年9月21日

法テラスの誕生と未来

司法

(霧山昴)
著者  寺井 一弘 、 出版  日本評論社

 3.11の朝、法テラス理事長の退任が閣議で了解されたという著者による、法テラスの過去と将来を語った貴重な本です。
 九州は長崎に縁の深い著者は、いま、安保法制違憲訴訟に全力投球の身です。私も、福岡で、少しばかりのお手伝いをしています。
 法テラスの理事長をつとめた著者の本ですから、さすがに法テラスが発足するまでの経緯と、スタートして今日まで、そして将来展望が熱く語られています。
 司法改革はアメリカから押しつけられたもので、改悪だという主張があるが、自分はそうは考えていない。その点、私も著者と同じ思いです。
 司法部門の強化拡充は規制緩和・市場主義の行き過ぎを是正して、社会的・経済的弱者の権利を擁護するために不可欠なものであった。なにしろ、法テラスの発足する前の法律扶助制度は、まったく「日陰の身」で、予算増大など夢のような話だった。
 亀井時子弁護士(東京)は、20年ものあいだ、国庫補助金は年間8000万円前後で推移し、広報もままならなかったと指摘し、嘆いていた。ところが、2004年6月、総合法律支援法が公布され、2006年4月に法テラス(日本司法支援センター)が発足した後、予算規模は格段に拡充した。2010年度は法テラスへの政府予算は310億を超えている。
法テラスと契約している弁護士は2010年度に1万5千人をこえ、司法書士も5千人超である。
 同じく2010年度、法テラスを利用する法律相談援助件数は25万件をこえ、代理援助も11万件を上回っている。そして、法テラスは自前のスタッフ弁護士を養成し、かかえているが、2010年度に300人をこえた。
 法テラスは、独立行政法人に準じた法人格を持っている。職員はすべて非公務員とし、徹底した民間主導型の組織となっている。
 弁護士の独立制を制度的に担保する仕組みもある。弁護士のなかには、国の所管する法テラスとは契約したくないという考えの人も少なくありませんが、私は、かつての国選弁護人と本質的に変わりはないと考えています。
 実際、民事事件で言えば、いま私の扱う借金整理関係と離婚関係の事件の大半は法テラス利用です。法テラスと契約しなければ、私の事務所の存続自体も危ういというのが率直な実情です。
 そして、刑事事件は9割以上が法テラス利用です。私選弁護の依頼は年に1件あるかないかという状況になっています。
 司法過疎地に法テラスの主宰する法律事務所が出来ていて、ところによっては地元弁護士会と摩擦を生じているところもあるようです。でも、それは、お互いの運用で解決できる問題ではないでしょうか。小都市、田舎であっても法的トラブルは発生していますし、そのとき、関係者が多数いるというケースは決して珍しいことではありません。そんなとき、法テラスのスタッフ弁護士と地元の弁護士とは平和的に共存できるはずなのです。
 2002年、小泉首相のとき、全国に3300ある市区町村の85%には弁護士が1人もいないという状況でした。今は、どうなのでしょうか・・・。
 実は、この本は2011年11月発刊であり、その翌年ころ著者より増呈されたのではなかったかと思います。長らく積んドク状態だったので、今回読んでみたのです。そんなわけで、データが古くなっているのは決して著者の責任ではありません。
 引き続き、憲法違反の安保法制の廃止のために、ともにがんばりたいと思いますので、よろしくお願いします。
(2011年11月刊。2500円+税)

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