弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年8月31日

姉・米原万理

人間


(霧山昴)
著者  井上 ユリ 、 出版  文芸春秋

 私は米原万里のファンです。彼女の本のすべてとは言いませんが、かなり読みました。
 毒舌に近い、舌鋒鋭い文章に何度となくしびれました。私よりいくらか年下ですが、尊敬していました。まだ56歳という若さでなくなってしまったのが残念でなりません。本人も本当に心残りだったと思います。
 ロシア語通訳として「荒稼ぎ」もして、「グラスノチス御殿」を建てて鎌倉にすんでいたようです。結婚願望がなかったわけでないようですが、「終生、ヒトのオスは飼わな」かったというのも、男の一人としてなんとなく分かる気がしています。
 妹から見た姉・万里の実像が惜しげもなく紹介されていますので、読みごたえがありました。父親の米原いたるは鳥取の素封家に生まれ、共産党の代議士にもなった大人物です。 
両親とともにチェコに渡って苦労した話から始まります。両親は、どちらもかなりおおらかな人柄で、娘たちを伸び伸び、自由奔放に育てたようです。
 米原家は、みんな大食い、早食いだったとのことです。そして、食べ物に目がなく、食べ物を愛したようです。料理研究家である著者は、まさしく、その趣向を一生の職業としたわけです。
 タルタルステーキの話が出てきます。私が初めてフランスに行ったとき、マルセイユで同行してくれたフランス人が目の前でいかにも美味しそうにタルタルステーキを食べました。生の牛肉に生卵をのせた料理です。私も食べたかったのですが、旅行中なのでお腹をこわしたらいけないと思って、なんとか我慢しました。日本に帰ってから探しても、タルタルステーキを食べさせてくれるところはなかなか見つかりませんでした。魚のカルパッチョはあるのですが・・・。ついに東京のホテルでメニューを見つけたとき、すぐに注文しました。
 怖いもの知らずの万里は、実は、知らないもの、食べなれていない物はダメだった。食べ物に限らず、新しい事態にぶつかると、ちょっと怖じけて、二つの足を踏んだ。
 ええっ、これは意外でした。そして、万里はアルコールコーヒーもたしなまなかったというのです。ウォッカなんて何杯のんでもへっちゃら、そんなイメージのある万里なのですが、意外や意外でした。そして、万里は抹茶をたしなんでいたとのこと。びっくりします。
 そして、米原万里はモノカキになる前、詩人だったのですね。なかなか味わいのある詩が初公開されています。たいしたものですよ・・・。
 トルコあたりのリルヴァというお菓子が世界一おいしいとのこと。私もぜひ食べてみたいと思いました。
 米原万里ファンの人なら必読の本です。


(2015年6月刊。1500円+税)

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