弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年8月26日

奪取、振り込め詐欺・10年史

社会

(霧山昴)
著者  鈴木 大介 、 出版  宝島スゴイ文庫

 この本は、一人でも多くの人に読まれるべきだと強く思いました。
 騙されないように気をつけましょう。銀行のATM操作でお金を受け取るつもりが送金させられてしまいかねません。郵パックで現金送れは詐欺です・・・
 そんな警告をいくらしても、詐欺被害は一向になくなりません。なぜなのか・・・。
 この本は加害者側の分業体制がすすんでいる内情を明らかにすると同時に、騙される側の情報がなぜ「犯人」たちに筒抜けになっているのか、名簿屋の最新の情報入手先を明らかにしています。そして、なぜ、被害者が被害を申告しないのか、多くの人が泣き寝入りしている、その理由も究明しています。
 私も、弁護士として何件もの被害者からの相談を受けましたが、大半は泣き寝入り状態で、被害回復はほとんど出来ていません。すぐに口座凍結はするのですが、すでに引き出されてしまっているものばかりですから、ほとんど実効性がありません。
 振り込め詐欺は何段階も進化をとげている。思いもよらないほど大きな組織と巧妙に仕組まれたネットワークがある。
 末端の集金役としての「ダシ子・ウケ子」。被害者に電話をかけるプレイヤー。それらを統括する番頭。組織の外部協力業者としての「名簿屋」と「道具屋」。天上人として現場に直接たずさわらず、組織に種銭(たねせん)を投げて収益を得る「金主」。犯罪である以前に、あくまで営利を追求する組織だ。
 何があっても頂上の金主だけは摘発されないという至上命題の下、組織は巧妙に合理化され、より多くの収益を上げるために詐欺のシナリオやターゲットの絞り込みを極め、現場要員の育成も徹底する。その企業活動としての振り込め詐欺組織の理念や組織論は、もはや一般の企業がぬるいと思えるほど卓抜したものとなっている。
 名簿屋の最新の入手先は二つ。一つは訪問介護事業者。介護事業の現場で働くホームヘルパーから、詐欺に適した高齢者の情報が商品として売られている。
 もう一つは、住宅のバリアフリーリフォームをした顧客リスト。バリアフリーが必要になる年齢で、リフォーム代金をポンと出せる人の名簿だ。
 そして、「下見屋」がこする。こするとは、情報を精査する作業のこと。
 かたり調査というのは、国勢調査とか市役所からの調査を装って電話をすること。高齢者は、暇で寂しいから、雑談をまじえると、どんどん必要ないことまで話してしまう傾向がある。
 つまり、名簿屋も親名簿をひっぱってくる収集班、下見班そしてパッケージの3段階に分かれている。
 最近すごく高値で取引されているのは「三度名簿」。詐欺で3回だまされたことのある人だけをのせた名簿。3度やられた人は、リスクも高いけれど、4度目も騙される可能性は高い。
 詐欺ではなく、恐喝まがいの脅し文句で迫るケースもある。声だけで怖い奴がいる。ターゲットの家の住所、携帯番号どころか、息子や孫の名前、勤め先を会話の端々に出す。もう逃げられない。報復が怖い。とりあえずお金さえ言われるまま支払っておけば、この問題から逃げられる。被害者が怯えてしまっているケースだ。
 いやはや本当に勉強になる本でした。ぜひ、みなさん、ご一読ください。

                   (2015年3月刊。720円+税)

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