弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年5月13日

経済的徴兵制

社会

(霧山昴)
著者  布施 祐仁 、 出版  集英社新書

 自衛隊の退職者も志願者も減っている。2014年度の自衛隊の総退職者数は1万2500人。2013年の1万1939人より500人以上も増えている。そして、2014年度は志願者も減った。2013年度の3万3534人から、2014年度は3万1361人と2000人以上の減少。
 これらの減少には、2014年7月の集団的自衛権の行使容認の閣議決定が影響している。
 国立大学の学費は、1970年(昭和45年)には年1万2000円だった(月1000円)。それが、今や年50万円となっている。物価が3倍なのに、学費は45倍にもなっている。これは国の予算の使い方が完全に間違っています。人材育成にお金を使わず、ムダな軍需産業にテコ入れしているのです。お金がないのではなくて、お金のつかい方が間違っています。
 韓国、北朝鮮、台湾、ロシアは徴兵制をとっている。中国は実質的に志願制になっているが、制度としての徴兵制は残っている。
 ヨーロッパでは徴兵制を廃止ないし停止している。ベルギー、オランダ、フランス、スペイン、イタリア、ポーランド、スウェーデン、ドイツ。
 アメリカは、1973年に選抜徴兵制から完全志願制に切り替えた。ベトナム戦争で、アメリカ人青年190万人が徴兵された。拒否して起訴されたのは2万5000人。
アメリカ軍は黒人の比率が高い。陸軍では28%が黒人だ。アメリカ連邦議会の議員のうち、軍務についている子弟をもつ者は一人しかいない。
アメリカの若者が軍に志願する理由は、一に奨学金、二に医療保険。日本も、だんだんアメリカに状況が似てきましたよね、心配です。
 入隊して1年間に月100ドルを納めたら、2年以上の軍務経験で、最大6万ドルの奨学金がもらえる。うひゃぁ、これって大きいですよね・・・。
 アメリカでも陸軍の援用目標を達成できていない。そのため、新兵の質は著しく低下した。それは、ドイツでも同じこと。新兵募集に苦しんでいて、目標未達成が続いている。
 日本の自衛隊にも、経済的動機から志願する若者が少なくない。
もし戦争が起こったら、国のために戦うかという質問に対して、「はい」と答えたのは日本は15%のみで、世界78ヶ国のうちで、断トツで最下位だった。そりゃぁ、そうですよね。アベ首相のいう「美しい国・ニッポン」のため死んでこいと言われても、なぜ、どうして私が・・・と考え込んでしまいますよね。
 自衛隊に入る若者が多いところは、貧困率が高い地域だ。それは、青森、北海道、宮崎、熊本、鹿児島、長崎、大分、佐賀と続いている。九州各県は福岡を除いて多い。
「経済的徴兵制」の何が問題なのか・・・。それは、国土防衛ではなくて、富める者たちの利益のために行われる海外での戦争で、貧しき者たちの命が「消費」されることにある。それは、不正義というしかない。使い捨てにされてよい人間など、この世界には存在しない・・・。
徴兵制だってありうるのが、今のアベ政権ですよね。貧困のために軍隊に入って、殺し、殺され、戦場から無事に戻ってきてもPTSDなどのため廃人同様になる。考えただけでもゾゾっとします。
(2015年1月刊。760円+税)

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