弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2016年3月11日

ドキュメント死刑図

司法

(霧山昴)
著者  篠田博之 、 出版  ちくま文庫

  2008年の末に刊行された本に大幅加筆したものです。既に処刑された死刑囚、死を待つ死刑囚と交流のなかで、その実情を明らかにしています。
  幼女連続殺害事件の宮崎勤は処刑されましたが、父親は自殺したものの、母親は毎月、拘置所へ差し入れに通っていたそうです。そして、被害者遺族への賠償もしています。
本人が早期の死刑執行を望むときは、異例の速さで死刑は執行される。小林薫、そして宅間守がそうだった。
  この世に生きる価値を見出せず、死んでしまいたいと考える人にとって、死刑は刑罰としての意味があるのか・・・?もともと社会から疎外され、現実社会に自分の居場所がないと思い、死んでしまいたいと考える人にとって、死刑はもう怖い刑罰ではない。
  宅間守は、自覚的に、自分を疎外するこの社会に復讐するために凶悪犯罪を犯した。死刑を宣告されてからも、早く執行してほしいと言い続けて、確定から1年間という異例の速さで死刑を執行された。
  宮崎勤、小林薫、宅間守の3人は、いずれも父親を激しく憎悪していた。宅間守は死刑確定後に獄中結婚した。彼と結婚を望んだ女性は2人いた。一人の女性は、自らも小学校のころからいじめに遭い、社会に訴外されてきた人物だった。自分も一歩間違えれば宅間守になっていたかもしれないと、犯罪を犯した側に自分を投影する人も、日本社会には現に存在する。こういう人が、社会に存在することに想像力を働かすことができないと、その犯罪を解明することはできないのではないか・・・。
  信じにくい話ですが、それが現実なのですから、お互い、ここは想像力を働かせるしかありませんよね・・・。
  小林薫は、こちらからの質問の意図も明確だったし、物事を何も考えていない人間ではなかった。恐らく、家庭環境が違っていたら、あのような犯罪者にならないですんだ人間ではないだろうか・・・。
  小林は、小学校のときに母親を亡くした。母親への思慕が強烈なのが、小林の特徴である。法廷で、母親の話が出たら涙ぐんだ。
  宮崎勤にとって、それは祖父だった。幼少期に自分を可愛がってくれた者の死が精神的ダメージを与えた。
  小林薫が父親に対して思い望んでいた6ヶ条。
  1.子どもと一緒に食卓に着き、団らんのひとときを過ごしてあげてください。
  2.子どもの話を聞いてあげてください。
  3.子どもを信じてあげてください。
  4.子どもと遊んであげてください。
  5.子どもを叱るとき、なんで叱るのか、何が悪いのか、言いきかせ教えてあげてください。 
  6.子どもが2人、3人といるのなら、平等に接してあげてください。
  ゆったり心の休まる家庭生活が子どもに本当に大切なんだなと思わせる本でもありました。  
 
(2016年1月刊。900円+税)

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