弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2015年11月 6日

消えた娘を追って

(霧山昴)
著者  ベルナルド・クシンスキー 、 出版  花伝社
   
 ブラジル軍事政権のとき、政権にタテついた若者たちが次々に拉致され消されていきました。消されるというのは、裁判もなく殺害され、その遺体は跡形もなく処分されて、何の記憶も残らないということです。著者の消された娘は大学で教えていました。写真がありますが、いかにも知的な美人です。
 ブラジル軍政下で逮捕されていた人たちが、今ではブラジルの大統領になっています。ルラ大統領とルセフ大統領です。著者の娘は残念ながら直ちに殺害されたのですが、今では都会の通りの名前になっています。忘れられないための措置です。
 そして、訳者によると、日系人も数多く消されたとのことです。
 日本人移民には、子どもには最良の教育を与えようと思い、子どもたちにも都会志向があり、日系人の大学進学率は飛び抜けて高かったのでした。ですからサンパウロ大学に日系人学生が多かったのも当然です。そして、1960年後半に起こった世界的な学生運動の高まりのなかで、ブラジルではサンパウロ大学が一番中心的な存在でした。ですから、日系人学生の多くが独裁政権に抗して立ちあがったのです。
 サンパウロ市が建立した記念碑には、軍政時代の犠牲差463人の名前が彫り込まれている。人々は跡形もなく消えてしまった。あのナチスだって、犠牲者たちを焼却炉で灰にはしたが、少なくとも記録は残した。
 拉致して拷問し、殺害した加害者232人のリスト。何十年かたって公表されたが、誰も罪に問われることはなかった。
 拷問には必ず医師が立ち会っていた。医師の役割は、拷問執行人が訊き出したいことを話す前に囚人が死んでしまうことを防ぐこと。
 学生たちを捕まえたら、八つ裂きにして、ばらばらの遺体を一つも残らないように消してしまう。部屋には、大きなテーブルがあり、その上に肉屋が使うのと同じ包丁や、のこぎりや金槌がある。そして、人間のバラバラにされた身体が・・・切られた腕が・・・脚が・・・そして、血・・・ものすごい量の血が・・・。
 これはドアに開いた穴からのぞいた人が見た光景です。なんとおぞましいことでしょう・・・・。
 軍事独裁政権のやったことは、どこでも同じですね。
 日本だって、放っておくと戦前のように軍人の天下になりかねません。アベ政権の目指している道そのものです。今ならまだ遅くありません。嫌なものは嫌だといえる平和な日本を守るために声をあげましょう。

(2015年10月刊。1700円+税)

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