弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2015年10月31日

すごいぞ「しんかい6500」

社会

(霧山昴)
著者 山本 省三   出版 くもん出版 
「しんかい6500」の建造にあたって、まず課題となったのは、操縦室。6500メートルの深海の水圧は、601気圧以上。それだけの水圧に耐えられる素材は、チタン合金しかありえない。
操縦室の直径は2メートル。そこに3人の乗員が座る。スペースがとれないので、トイレなし。携帯トイレを持参する。女性には辛い。
暖房設備はない。理由は二つ。すべてのエネルギーをリチウムイオン電池にたよっているので、できる限り電力を節約しなければならない。また、船内で呼吸するため、酸素を使用している。酸素が濃くなると、自然に土がついたりするので、熱を出すものは危険。6500メートルの深海の水温は1度か2度。それが操縦室の中にまで伝わってきて寒い。だから、上下がつかなかった。燃えにくい布でできた潜航服を着用する。その下には、真夏でもセーターを着る。
沈むスピードは1分間に40メートル。深さが300メートルをこすと、太陽の光がしだいに届かなくなり、窓の外は夕暮れのように暗くなっていく。
母船とは、声でやりとりする。水の中では電波が弱まるので、音波を使う。音波が水中を6500メートルすすむのに4秒かかるので、海上で聞くのは4秒前の声。
6500メートルの海底に着くまでに、潜航開始から2時間半かかる。海底にいられるのは4時間ほど。
マリンスター。船体に触れたショックで、ぱっと光を放つ発光生物。しかし、写真やビデオにはこの光がうつらない。深海にもぐった人だけが見られる光景。
浮かび上がるときにも、行きと同じ速さで浮かんでいくので、海面まで2時間半かかる。合計すると、8時間の船旅だ。こんな潜航調査を4月から12月にかけて60回おこなう。残りの4ヶ月は、部品の分解やそうじ、修理にかける。
なぜ日本に地震が多発するのか。それは、日本列島が沈んでいくプレートに直面しているからです。
「しんかい6500」は、地上の私たちの暮らしの安全を支える調査の一つを実行しているとも言えるわけです。
写真がたくさんあって、とても分かりやすく、楽しい本でした。

(2012年4月刊。1600円+税)
 

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