弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2015年8月31日

感じて歩く

人間

(霧山昴)
著者  三宮 麻由子 、 出版  岩波書店

 シーンレスは著者の造語で、全盲という意味です。風景がないということです。
 「視覚障がい」とか「全盲」というマイナスイメージの強い言葉を使わずに、ただ目の前に視覚的な風景がないという事実だけを表現する。
 シーンレスになると、歩くと物にぶつかる現実に直面する。
 プラットホーム上では、シーンレスは極限の緊張状態にある。「欄干のない橋」とか「柵のない断崖」という表現は決して誇張ではない。
 シーンレスの3人に2人は転落経験があり、残りの3人に1人も、いつ3人に2人の側に行ってもおかしくない。鉄道、プラットホームに置いてシーンレスがさらされている命の危険が現実に恐ろしい結果となる確率は、健常者とは比較にならない次元で高い。
 シーンレスにとって、杖は命の次に大切な宝物だ。杖は世界への案内者になる。
 ときどき、道で自転車や車と接触して杖を折られることがある。杖を折られるのは、持ち主を命の危険にさらすこと。
 人より気をつけていても衝突が避けられないのがシーンレスである。白い杖は、そのことを知らせる目印である。
 白杖を折られ、地面との糸電話を断ち切られたら、シーンレスは一歩も歩けない。
 白い杖は単なる道具ではなく、使う人の身体の一部なのだ。
シーンレスにとって、曲線や斜めの角度をふくむ空間認識は歩行のなかでも最難関である。
 自立とは、自己決定できることであって、「ひとりでできる」ことではない。
全盲の女性が社会的に活躍していける時代にはなりました。しかし、シーンレスの人々にとって、やるべきことはこれからもますます多いようです。ぜひ今後とも元気にがんばってください。
(2012年6月刊。1800円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー