弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2015年7月 6日

わが盲想

人間

                                (霧山昴)
著者  モハメド・オマル・アブティン 、 出版  ポプラ文庫

 アフリカはスーダンから19歳のときに日本へやって来た盲目の青年の哀しくも面白い奮闘記です。
 私の娘も、突然、弱視になって盲学校に在学中ですので、目が見えないことの不便さをしのびながら読みました。
 それにしても、底抜けの楽天性であるので、まるで漫談を読んでいるように気楽に読める本です。じめじめした暗さがのないのが救いです。
 著者は、今37歳。19歳の時に日本に来たので、もう20年近く日本にいるから、もちろん日本語はぺらぺらだ。それも、おやじギャグがうまい。
 本をつくるには、視覚障害者向けに、音声読み上げソフトがついたパソコンを使う。イヤホンをつけてキーボードを打つと、打った文字を機会が読み上げてくれる。漢字変換するにしても、「ごとう」と打って変換キーを押すと、「前後の後」、「藤の花のフジ」と機会が言うので、正しい漢字が読みあげられたときにエンターキーを押す。このように、すべて音声による作業である。
 著者が日本に来たのは1998年1月のこと。東京は雪景色だったから、寒さに震えてしまった。そして初めて食べた日本食はカレーライス。あっという間に三杯をたいらげた。
 スーダンでも、イスラムの世界ではどこでも、自分の裸を他人に見せてはいけない規則がある。だから、公衆浴場は困る。そうなんですか・・・。
 福井県で勉強を初め、こてこての福井弁になじんだようです。
 「スーダンって、どこにあるのですか?」
 「ヨルダンという国があるでしょ。その隣にヒルダンがあって、その真ん中にアサダンとスーダンがあるんです」
 これって生真面目な人が聞いたら、本気にしてしまいますよね。
 著者はスーダンの女性と結婚することが出来ました。その女性が示した条件は二つ。
 お酒を飲んでいませんか?
 お祈りをしていますか?
 スーダンでは、酒飲みは社会的信用は低い。実は、著者は日本に来て、お酒を飲んでいた時期があったのです。でも、お酒はやめていたので、飲んでいないと即答することができたのです。偉い!
 スーダンでは、結婚する前に、新郎と新婦の家族が、それぞれ相手の家族について調べる習慣がある。近所の評判とか、両親の職場での評判を聞いて、家族同士のつきあいができるかどうか判断するのだ。こうして、著者はたった1ヶ月前に電話で知りあった女性と結婚した。スーダンでは、あることだが、日本では口が裂けても話せない。
 スーダンの伝統的結婚儀礼では女性しか出席しない。それぞれ女性が50人ずつ集まった。新婦は新郎に向かって牛乳を口にふくむと、遠慮なく吹っかけた。
 『恋するソマリア』を書いた高野秀行氏が著者の友人とのことで、最後に二人の対談ものっています。
 お寿司が大好きな盲目のスーダン人です。こうやって人間の輪が広がっていくのって、いいですよね・・・。これこそ、まさに積極的な平和主義の実践だと思いました
(2015年2月刊。640円+税)

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