弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2015年7月 1日

どうして就職活動はつらいのか

社会

                             (霧山昴)
著者  双木 あかり 、 出版  大月書店

 この本を読んで、ようやくシューカツの問題点を少しばかり分かりました。私自身はシューカツを真面目にしたことがないので、ぴんと来なかったのです。
 私が大学を卒業したのは40年以上も前のことになりますが、そのころは、学生のほうが企業を選べていた時代でした。本気じゃない私も、一社だけは就職面接に友人に同行したことがあります。本気ではなかったというのは、私の本命は司法試験だったということです。
 この本は、2009年4月に一橋大学に入学した女性が、シューカツの苦しみを体験に基づいて語ったものです。本当に大変だったんだなと身につまされました。
 就職失敗で自殺した大学生は、2008年に22人、2012年には45人にのぼった。14%もの学生がシューカツでうつ状態に陥っているという調査もある。
 シューカツの不安の根源には、若者の日本社会への強い不信がある。
 その点は、弁護士でもある私にもよく理解できます。大企業本位、若者の使い捨てを賞賛するような企業論理ばかりが横行するなかで、きちんとした会社には行って正社員になりたいと考えるのは、誰だって当然です。でも、それが、至難の状況になっています。
シューカツが大変なのは、新卒採用という、ほぼ一度きりの機会に限定されていることになる。
 シューカツが深刻なのは、その過密なスケジュールによる具体的・精神的な疲労である。大学4年生になったら、4月以降の予定は、まったく立てられなくなる。
 シューカツでは、電話やメール・就活サイトのチェックが不可欠となる。ガラケーではダメで、スマホが必須だ。
大学では思考力をきたえろといわれるのに、シューカツでは考えることをしていない体育会系が有利だという・・・。
 私は、この点、大変な反発を覚えてしかたありません。私は体育会系と反対のセツルメントという泥臭い活動をしてきましたので、それがシューカツで否定されるのは、どうしても納得できません。
 シューカツの面接では、そんなにたいしたものではない自分を、さもたいしたものであるかのように話し続けなくてはならない。これは自分をだましているようなもの・・・。
 シューカツ生(就活生)は、身体も精神も思考も人間関係も、自信のすべてをシューカツに投じることを強いられ、その全人格を評価にさらす。そのため、その評価結果は、すべて自分ぜんたいに返ってくる。
 現在のシューカツは、自分の全てを注いで熱心に活動する学生ほど、失敗したときに深く傷つき自己否定に陥ってしまう。それを回避するためには、まず全人格をシューカツに投げ込むことを防ぐ必要がある。
 シューカツとは関係のないところで、ただ自分を受けとめてくれる人の存在が大切だ。
 シューカツの大変なつらさを一刻も早く解消しないと日本に未来はない、そう思いました。
(2015年4月刊。1600円+税)

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