弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2015年5月16日

御松葺騒動

江戸時代

                              (霧山昴)
著者  朝井まかて 、 出版  徳間書店

 尾張徳川藩を舞台とする話です。作家の想像力とは、すごいものです。たっぷり朝井ワールドに浸って楽しませていただきました。
 尾張藩は徳川宗春時代の放漫政治が今なおたたっていて、借金を抱えて四苦八苦しているというのに、藩士たちの生活には緊張感が認められない。それを主人公が一人で改革しようと躍起になるのですが・・・。
 空回りしてしまって、ついには御松茸同心(おまつたけどうしん)を命じられて、都落ちさせられます。要するに、江戸屋敷づとめからの左遷です。
 才能ある自分がなぜ左遷させられるのか納得できないまま尾張へ出向き、山の中の仕事に向かうのでした・・・。
 松茸ができるのは黒松ではなく、赤松。その生成過程が紹介されます。
 松茸が四、五分開きまでの物が御松茸になる。地表に出たものは傘が開ききっているので上納できない。地表から半寸ほど頭を出したときに掘りとなる。手を差し入れて根元から押し上げるように採取する。
 軸が肉厚で白く、太く、かつ湿り気を帯びていなければ、風味は格段に落ちる。松茸でさらに肝要なのは香りと芳しさだ。匂いは傘にある。早採りしても匂いが足りないので、上納品にはならない。このように、松茸の収穫はごく短期間に限られる。
松茸の収穫をどうやって確実にするのかということが、次第に才能ある若き武士の挑戦すべき人生の課題となっていくのでした。
 主人公を取り巻く人々も魅力的な個性あふれる人物に描かれていて、しっかり朝井ワールドを楽しむことができます。
(2014年12月刊。1650円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー