弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2015年3月14日

池田屋乱刃

日本史(江戸)


著者  伊東 潤 、 出版  講談社

 幕末の京都で起きた池田屋事件。
 文久4年(1864年)、2月に改元されて元治(げんじ)元年となった。この年の1月、将軍家茂が上洛し、参与諸候は長州征討を協議した。参与諸候とは、一橋慶喜、島津久光、松平春嶽、伊達宗城、山内豊信、松平容保の6人である。しかし、天皇に接近しようとする島津久光に警戒する慶喜は、参与会議を解体させようと画策し、参与会議は迷走したあげく、3月9日、そろって辞意を表明して瓦解した。
 前年8月18日の政変によって、会津藩兵に薩摩藩兵が加わって2千の大軍となった会薩(かいさつ)同盟軍は、御所の門を閉ざし、三条実美(さねとみ)ら急進派公家の参内(さんだい)を禁じ、長州藩士ほかの尊攘派浪士たちを追放処分にした。
 この8月18日の政変のあったあと、取り締まりの厳しくなった尊攘派志士たちは、頻繁に寄合の場所を変えた。その一つが池田屋だった。
 ときは祇園祭の宵々山なので、三条通は、いつになく賑やかである。池田屋二階に集まった志士たちは、議論が激してくるとケンカを始める恐れがある。そこで、刀を集めて、池田屋の主(あるじ)に預けておいた。これが裏目に出た。
 午後10時すぎ、階下から「お改めです」という声が聞こえ、階段を駆け上がってくる音が聞こえた。何事かと注視していると、
 「御用改めだ。神妙に縛に就け。手向かいいたすと、容赦せぬぞ」と胴間声を張りあげた。王生浪(新選組)か。
 池田屋事件の渦中にいた人物を一人一人、主人公とした短編を連作としている時代小説です。なるほど、それぞれの人に人生があったことを実感させてくれます。そして、最後に桂小五郎が登場します。西郷・大久保と並んで維新三傑とうたわれた木戸孝允です。
 池田屋から必死の思いで逃げ出し、ついに生きのびたことを死ぬまで恥ずかしく思っていたのでした。
池田屋事件の顚末を生き生きと描いた小説です.さすが、作家の筆力はすごいものだと驚嘆しました。
(2014年10月刊。1600円+税)

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