弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2015年3月12日

失職女子

社会


著者  大和 彩 、 出版  WAVE出版

 親から突き放され、一人で生きていかなければならない若い女性が、やっと就職した会社でリストラにあい、ついには病気もかかえるなかで生活保護を受給して、生計を立てていくという大変な状況をユーモアを忘れずに描き出しています。ブログから本になったようですが、独身女性の娘をもつ親として身につまされます。
家賃が支払えない。どうすればいいの? と絶望している、そのこあなた!すべての失職女子、貧困女子にこの本を捧げる。
 著者にとって実家とは、心の安まる場所ではなかった。母の金切り声と父のタバコの煙にまぎれて、どうにか自分の存在を消し、日々をやり過ごす場所でしかなかった。
 家庭とは、ずっと批判や嘲笑、怒鳴り声、そして暴力にさらされる場所だった。両親は幼児並みに感情が不安定な人たち。母は衝動的で、娘の嫌がることを、わざと執拗にくり返す。
実の子どもなのに、家庭で両親からいじめに遭っていただなんて、たまりませんね・・・。
 著者が生まれ育った家庭は、常に息詰まる雰囲気の場所だった。記憶に残っている父親は、「おとうさん」と呼びかけても、返事どころか、娘を見ようともしない。その反面、突然に「キレた」状態になり、意味不明な理由で怒鳴り、子どもたちにも暴力を振るった。
 こんな両親のもとで育っても、こんなにまともに冷静に文章が書けるのですから、人間には復元力が本当にあるのですよね。きっと親が反面教師の役割を果たしていたのでしょう。
 著者は採用面接にこぎつけても、ことごとく落ちています。そのあげくに、激しいストレスから、なんと体重が100キロ近くにまで太ってしまいます。これはヤバいです。そして生活に疲れているな~っていう感じを与えてしまうのです。
 面接で、ことごとく不採用になるのは、心のなかで面接官に毒づいたり、戦災孤児に変身して面接官に不穏な視線を送っていたから。今では、それが分かる。
 かの湯浅誠は、こう言った。たとえお金がなくて「貧乏」でも、周りに励ましてくれる人たちがいて、自分でも「がんばろう」と思えるのなら、それは貧困ではない。それが「貧乏」と「貧困」の違いだ。なーるほど、という感じですね・・・。
 やっと見つかったパートに出るときの著者の格好は、次のようなものです。
 眼鏡とマスクを常に装着して、ライトな変装で自分を守る。マスクのいいところは、アイメイクさえすれば、ちゃんと化粧しているかのようにごまかしが効くこと。辛いときには、それに眼鏡をプラスする。
 いよいよ経済的に行きづまったときには、福祉事務所に行って生活保護の相談をすることをおすすめしたい。消費者金融(サラ金)から借金するより、そっちがよほど健全。
 今では、弁護士会も生活保護の相談やら、生活保護申請のときに同行するということもしているのです。ぜひとも、早目にご相談ください。
憲法25条はすべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する、と定めている。生きて、最低限度の生活を営んでいいんだ・・・!
 そのことを生々しく実感させる体験記です。ひき続き、元気に生きていってくださいね。そして、体重は早く半減してくださいな。そのとき、きっと新しい人生がスタートしますよ・・・。
(2014年12月刊。1400円+税)

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