弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2015年2月24日

米軍と人民解放軍

アメリカ


著者  布施 哲 、 出版  講談社現代新書

 アメリカと中国が戦争するなんて、悪夢の最たるものです。正気の沙汰ではありません。もちろん、アメリカも中国も、お互いに戦争する気はさらさらありません。日本の一部で、そんなシナリオが語られているにすぎません。
 この本は、そんな悪夢を、現実のものと仮定したときのシミュレーションをしたものです。これが現実になったら、日本を含めて人類は全滅してしまうとしか言いようがありません。
 でも、アメリカ軍と中国軍の戦闘能力を知ることは必要ですよね。そんな観点で紹介します。
 この10年間で、中国の国防予算は4倍にふくれあがった。2014年には13兆円近くとなり、世界第2位。日本の軍事費5兆円を大きく上回っている。総兵力の面でも、日本の自衛隊25万人に対して、人民解放軍は230万人と格段の差がある。
アメリカは攻撃型原子力潜水艦(SSN)を53隻も保有し、毎年2隻ずつ建造している。
 また、アメリカは空母を11隻もち、空母は、護衛のイージス艦やSSNとともに空母打撃群という単位で行動している。
 空におけるアメリカ軍の優位性は、安価で高度な攻撃能力を持つ地対空ミサイルSAMの登場によって揺らいでいる。攻撃側は、安価なミサイルで効果地な目標を攻撃あるいは無力化できる状況が生まれている。高価で高性能な有人機を運用するアメリカ軍にとって、被害コストが大きい不利なゲームになりつつある。
 中国にとって、海軍は中国の影響力を拡大させ、エネルギーや食糧を確保し、共産党の一党独裁体制を維持し続けるためのツールになっている。
 中国の海軍は、軍の行動の及ぼす対外的な影響の大きさを認識していて、武力行使には抑制的だ。これに対して、中国の海警は、そうした認識が薄く、威嚇や強硬姿勢を軍より選択しやすい傾向にある。
ミサイルは、きわめて安価な兵器だ。中国の対艦弾道ミサイル(DF-21)は、一発あたり9000万円(87万ドル)ほど。その運用ノウハウは難しくなく、途上国軍隊でも抑える程度のもの。
 アメリカにとって、日本は前方展開拠点としての地政学的位置があることからの重要性がある。
 日本という補給拠点、修理拠点、出撃拠点をアメリカ軍が失えば、アメリカ軍は西太平洋における軍事作戦の遂行が困難になってしまう。
中国が短期決戦を目ざすとすれば、嘉手納の航空戦力をミサイル攻撃で叩くことが想定できる。そうなれば、アメリカ軍に犠牲者が出て、アメリカは世論に後押しされてアメリカ軍を派遣させざるをえなくなる。
嘉手納の存在は、アメリカにとっては「巻き込まれ」を意味し、アメリカの関与を引き出したい日本にとっては、アメリカ軍を日本の防衛に「巻き込む」(つなぎとめる)意味がある。
 嘉手納基地は、このように中国からのミサイル攻撃に対して脆弱なため、アメリカ空軍はグアムにあるアンダーセン基地に戦力を集中することを想定せざるをえない。
 戦争が国家を総動員した長期間にわたる総戦力であったのは第二次世界大戦、また朝鮮戦争までのこと。現代戦は、2週間から、せいぜい4週間ほどで終結することが前提とされている。
攻撃後に散開した人民解放軍の特殊部隊を制圧・捕獲できたのは、わずかでしかない。
 アメリカと中国の間にいる日本の交渉力を強める特効薬は、日本経済の成長だ。
 中国に対して経済面で過度に依存することは、中国の要求に対する日本の脆弱性を高め、日本の戦略的判断の幅を狭めることになりかねない。
大いに考えさせられる本ではありました。
(2014年8月刊。880円+税)

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