弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2015年1月27日

日本人は人を殺しに行くのか

社会


著者  伊勢崎 賢治  、 出版   朝日新書

 昨年末の西日本新聞に、アフガニスタンで活躍中のペシャワール会の中村哲医師の活動が写真とともに大きく取り上げられていました。中村医師は福岡県出身で、自宅も福岡県内にあります。わが郷土の誇るべき偉人です。
 中村医師は、安倍首相とはちがって、アフガニスタンの復興に必要なのは銃ではないと強く訴えています。中村医師は患者を治療する前に病気にならないようにすることが大切だとして、農業用水路を自ら開設していったのです。
 丸腰で働く中村医師には、絶えず二人の護衛が銃をもって付き添っているとのこと。それでも戦後一度も戦争をしたことのない平和な国・ニッポン人だからこそ、中村医師は丸腰のままアフガニスタン復興に身を挺することができているのです。ある意味で、「美しい誤解」を日本人は受けていて、中村医師もその恩恵を蒙っています。
いま、安倍首相のやっていることは、日本をフツーの戦争する国に変えることですから、これでは中村医師の活動を誤解する人が生まれても不思議ではありません。安倍政権は、中村医師の足をひっぱり、ひいては日本人全体の信用を害していることになります。
 この本は、「紛争屋」と自称する著者が、安倍首相の集団的自衛権行使の問題点を徹底的に究明したものです。
安倍首相の唱える「集団的自衛権」の行使が容認されると、間違いなく日本と日本を取り巻く国際環境に劇的な変化が起きる。
 現時点で、すでに日本人が海外で人を殺し、殺される一歩手前まできている。
 「集団的自衛権」は、あくまで国益のために行かれるものであるため、ときに国のエゴがむき出しになることがある。これまで、権利としては持っているけれど、集団的自衛権はあくまでも使うことができないものだと解釈されてきた。集団的自衛権の問題は、アメリカとの関係に左右される。
アフガニスタンでは、武装解除を免れ、武器を与えられてきたアフガンの警察は、いまは腐敗国家のシンボルと言ってよい存在だ。アフガニスタ警察を腐敗させたのは、アメリカのブッシュ政権に帰属する。
 ブッシュ大統領は、もともと地方軍閥の子飼いの民兵だった連中に、ロシアから輸入した大量の武器を与え、その連中を地方の警察として各地に配置した。わずか数か月で5万人もの促成地方警察を生み出した。日本の掲げた「治安分野の支援」は、腐敗の象徴であるアフガン警察に給料を払い、それを肥大化させることにつながった。
安倍内閣は、「集団的自衛権の行使」に際して、自衛隊の出ていく範囲を限定するつもりは全くない。
 日本に50ケ所以上ある原発(原子力発電所)の排水口に向けてRPG(携行ミサイル)が発射されたとき、日本全体が破滅してしまうことになる。
 「売れるから」という理由だけで書店に並べられている本が、日本人の好戦性を少しずつ、しかし確実に煽っている。これはなんとも不気味で恐ろしい話だ。人々の「熱狂」というのは、核兵器も超える真の大量破壊兵器になりうるものである。
 シリーズ累計100万部の『マンガ嫌韓流』(晋遊舎)、27万突破。『呆韓論』(産経新聞社)、20万部を突破した『韓国人による恥韓論』(扶桑社新書)など、ヘイトブックと批判されている本が大変売れている。
昨年末の衆院選で、得票を減らし、議席数も本当は減らしているのに「圧勝した」と間違った情報をたれ流し、マスコミは安倍政権を助けています。
何度も武装解除の現場に立ち向かったことのある著者ならではの本です。ご一読ください。
 
(2014年10月刊。780円+税)

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