弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年12月28日

アルピニズムと死

人間


著者  山野井 泰史 、 出版  ヤマケイ新書

 ここまでして山登りするのかと、ついつい深い溜め息が出ました。
 何度も死の危険に直面し、山の仲間が何人も死んでいます。そして、凍傷のため手足の指は満足にありません。さらには、山の中を走っていて熊に顔をかじられ、鼻をなくしたというのです。いやはや・・・。
 山に出かけるのは、年間70回。40年の間に3000回近くも山へ登りに行って、なんとか生きて返ってきて今日がある、というわけです。それでも、著者が死ななかった理由。
 それは、若いころから恐怖心が強く、常に注意深く、危険への感覚がマヒしてしまうことが一度もなかったことによる。
 自分の能力がどの程度あり、どの程度しかないことを知っていたから。
 自分の肉体と脳が、憧れの山に適応できるかを慎重に見きわめ、山に入っていった。
 山登りがとても好きだから、鳥の声や風や落石や雪崩の音に耳を傾け、心臓の鼓動を感じ、パートナーの表情をうかがいつつ、いつ何時でも、山と全身からの声を受けとろうと懸命になる。雪煙が流れる稜線、荒い花崗岩の手触り、陽光輝く雪面、土や落ち葉の色、雪を踏みしめたときの足裏の感触・・・。山が与えてくれるすべてのものが、この世で一番好きだ。
ソロクライマー(単独登山家)はリスクが高い。実際にも、多くの悲しい現実がある。しかし、この世のもっとも美しく思える行為は、巨大な山にたった一人、高みに向けてひたすら登っているクライマーの姿なのである。
山中でトレイルランニングをして身体を鍛える。家でも腹筋運動のほか、酸素をたくさん取り込めるように、15分間は腹式呼吸の練習をする。
 脂肪はもちろん、大きな筋肉をつけないように注意し、毎日、体重計に乗る。
 体力に余裕があれば、登山中でも視野を保て、危険を見抜く能力を保つことができる。
 トレーニングは、肉体だけでなく、想像するイメージトレーニングもする。下半身に乳酸をためないようにする。
私は、著者が今後も無事に、好きな山登りを続けてほしいと思いました。
(2014年11月刊。760円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー