弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年12月14日

推定脅威

社会


著者  未須本 有生 、 出版  文芸春秋

 松本清張賞の受賞作です。日本海の上空を領空侵犯してきた不審機に自衛隊機がスクランブル発進して接近する。ところが、あまりに低速飛行してしまったため、失速して、海面に激突してしまった。
 いったい何が原因で起きた事故なのか・・・。
 自衛隊のジェット戦闘機TF-1は、防衛省技術研究本部が開発し、航空自衛隊が運用する。開発にあたっては、四星工業が主契約社となって設計・製造している。
 ジェット戦闘機の構造を詳しく知っていないと書けない展開です。そして、構造・性能を一般的に知っているだけではストーリー展開ができません。犯人は飛行機の弱点を知りつくしていて、そこを狙って仕掛けてくるのです。
 こんなメカニズムの取材は大変だろうなと思って、最後に著者の経歴を知って、そうだったのかと納得してしまいました。著者は、何と東大工学部航空学科を卒業して、大手メーカーで航空機の設計に長く従事していたのです。そのとき、自衛隊のメカニズムとか、その問題点も十分に認識したのでしょうね。
 そして、自衛隊と民間企業との交流の実態も実体験して十分に把握していたからこそ、ストーリーが無理なく展開できたのです。
 推理小説なので、これ以上はもう書きません。「航空機についての知識に圧倒される」というコメントには、まったくそのとおりだと私も思いました。
 ところで、特定秘密保護法が施行されて動き出したとき、このような自衛隊機の問題点を探ったりするのは、まさしく「秘密」そのものに該当しますよね。そうすると、今は推理小説として楽しく読めますが、小説の素材にもしにくくなることでしょうね。
 まったく、国民の知る権利に逆行する法律です。弁護士会は、日弁連を先頭に特定秘密保護法は廃止すべきだと声を上げています。
(2014年8月刊。1350円+税)

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