弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年11月30日

井上ひさしの劇ことば

人間


著者  小田島 雄志 、 出版  新日本出版社

 井上ひさしの本は、それなりに読んでいますが、残念ながら劇はみたことがありません。
 遅筆堂と自称していた井上ひさしの劇の台本は、きわめて完成度が高いことに定評があります。
 著者は、井上ひさしの劇の初日に必ず行って、終了後にコメントするのが常だったそうです。すごいものです。
 井上ひさしの劇は、ことばがコントロールされず勝手に飛び出してくる。その多彩さに、自由でムダな部分が面白い。
 井上ひさしのことばのもつ遠心力のエネルギーには、ものすごいものがある。
 ことばは、真実を掘り出すツルハシ。
 ことばは、ボディーブローのように効く。
 ことばは、常識を覆す。
 ことばは、肩すかしを食らわせることができる。
 ことばは、同音異義語で駄洒落ることがある。
 ことばは、「死」と「笑い」を同居させることがある。
 ことばは、ドラマティック・アイロニーを生むことがある。
 ことばは、人間世界を俯瞰することができる。
 ことばは、造語することができる。
 ことばは、願い、誓い、呪いを短く強く発することができる。
 ことばは、あらゆるものを対比・総合することができる。
 井上ひさしは、思い切って「ことばの自由化」をやった。自由にことばの枠を広げたところから始め、近代劇の論理にとらわれないで、ことばが自由に飛び出た。
誰が演じても観るものを泣かせる芝居。それがすばらしい劇曲の証拠だ。
 井上ひさしの本や劇をもっと読みたかった、観てみたかったと思いました。
 井上ひさしも偉いけれど、この著者もすごいと思ったことでした。
(2014年5月刊。760円+税)

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