弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年9月30日

1984年

イギリス


著者  ジョージ・オーウェル 、 出版  ハヤカワep:文庫

 ジョージ・オーウェルの『動物農場』は読んだことがありますが、この『1984年』は初めて読みました。読んだつもりではあったのですが・・・。
 ある会合で、馬奈木昭雄弁護士が60年前に書かれた本だけど、現代日本の社会とまるで似た状況を既に描き出した本だと指摘したのを聞いて、この「新訳版」を手にとって読みはじめたのです。
 いま「朝日新聞たたき」がさかんです。本当に「誤報」だったのかどうかはともかくとして、読売もサンケイもこれまで誤報など一度もしたことがないかのように「朝日」をたたく姿は、あまりに異常です。そして、一部の週刊誌と右派ジャーナリズムの波に乗って吠えたてる人がなんと多いことか・・・。言論統制としか思えません。
 従軍慰安婦の問題の本質は、強制連行があったかどうかでは決してありません。女性が望まぬ性行為を軍部によって強いられ、その状況から自由に脱出することが出来なかったことにあります。まさしく性奴隷です。「朝日」を声高に非難する人たちは、自分の娘をそんな境遇に置いていいとでも考えているのでしょうか・・・。
 安倍首相の強引な憲法破壊策動に乗っかかって、平和な日本社会を根本からひっくり返そうとする動きに、心底から私は恐怖を覚えます。
党の三つのスローガンが、町のどこにでもある。
 戦争は平和なり
 自由は隷従なり
 無知は力なり
 1984年の、この国には、もはや法律が一切なくなっている。だから何をしようとも違法ではない。しかし、日記を書いていることが発覚すると、死刑か最低25年の強制労働収容所送りになることは間違いない。
 最近の子どもは、ほとんど誰もが恐ろしい。子どもたちは、党と党に関係するもの一切を諸手をあげて礼賛(らいさん)する。党賛美の歌、行進、党の横断幕、ハイキング、模擬ライフルによる訓練、スローガンの連呼、「ビッグ・ブラザー」崇拝、それらはすべて華々しいゲームなのだ。かれらの残忍性は、ごくごく外に、国家の敵に、外国人、反逆者、破壊工作者、思考犯に向かう。だから、30歳以上の大人なら、他ならぬ自分の子どもに怯えて当たり前だ。
党員間の結婚は、すべて任命された専門委員会の承認を得なければならない。党の狙いは、性行為から、すべての快楽を除去することにある。敵視されるのは、愛情よりも、むしろ性的興奮。それは、夫婦間であろうとなかろうと同じだ。だから、当事者たる男女が肉体的に惹かれあっているという印象を与えてしまうと、決して結婚について専門委員会の承認は得られなかった。
 結婚の目的はただひとつ、党に奉仕する子どもをつくることだけだった。党は離婚を許さなかったが、子どものいない場合には、別居を奨励していた。セックスをすると、エネルギーを最後まで使い切ってしまう。その後は幸せな気分になって、すべてがどうでもよくなる。党の連中はそうした気分にさせたくはない。どんなときでも、エネルギーはち切れんばかりの状態にしておきたいわけ、あちこちデモ行進したり、歓呼の声を上げたり、旗を振ったりするのは、すべて、腐った性欲のあらわれそのものだ。心のなかで幸せを感じていたら、党の連中の言うくだらない戯言(たわごと)に興奮したりしなくなるから・・・。いやはや、とんだ社会です。
 世界は三つの超大国に分裂している。ユーラシアは、ヨーロッパ大陸など。オセアニアはアメリカ大陸など。そしてイースタシアは、中国や日本などからなる。この三つの超大国は、敵味方の組合せをいろいろにかえながら、永遠の戦争状態にあり、そうした状態が続いている。
 社会の上層の目的は、現状を維持すること。中間層の目的は上層と入れ替わること。
 上層は、自由と正義のために戦っている振りをして下層を味方につけた中間層によって打倒される。中間層は、目的を達成するや否や、下層を元の隷従状態に押し戻し、自らは上層に転じる。下層グループだけは、たとえ一時的にしても、目的達成に成功したことがない。
 プロレタリアは、党に入る資格を得ることが認められていない。そのなかでもっとも才能があり、不満分子の中核になる可能性のある者は、ひたすら思考警察にマークされ、消されてしまう。
党のメンバーは、私的感情を一切もってはならないが、同時に熱狂状態から醒めることのないよう求められる。常に熱狂のうちに生きることを求められる。
 オセアニアの社会ではビッグブラザーは全能であり、党は誤りを犯さないという信念の上に成立している。
 党の求める忠誠心は、黒を白と信じこむ能力、さらには黒を白だと知っている能力、かつてはその逆を信じていた事実を忘れてしまう能力のことだ。そのためには、絶えず過去を改変する必要が生じる。過去は、党がいかようにも決められるものなのだ。
 党は、人生をすべてのレベルでコントロールしている。人間というのは、金属と同じで、うてばありとあらゆるかたちに変形できる。
 「1984年」から30年たった今、日本社会の現実は、「アベノミクス」礼賛一色、安倍内閣持ち上げ一辺倒のマスコミ操作が強力に進行していて、本当に恐ろしい限りです。でも、まだ、希望を捨てるわけにはいきません。そんな社会にしないため、一人一人が声を上げるべきだと思うのです。
(2014年2月刊。860円+税)

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