弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年9月26日

「おこぼれ経済」という神話

社会


著者  石川 康宏 、 出版  新日本出版社

 私の身のまわりは、本当に不況が深刻です。宅配業に従事している人は、この夏のお中元は激減しましたと言います。お菓子屋さんに勤める人も、同じくお中元商品はさっぱりですと言いました。中長距離トラックの運転手の人たちも、物流に勢いがないと断言します。
 アベノミクスの恩恵を蒙っているのは、超大企業とごく一部の人々ではないでしょうか。多くの庶民は、賃金や年金が減る一方で、消費税が上がって食費と出費を切り詰めて、生活防衛に走っています。だから、外食産業もアップアップしているのです。
 この本は、アベノミクスにだまされてはいけない、そのカラクリを見抜くことをおすすめしています。いま、たくさんの人に読んでほしい一冊です。
 アベノミクスは、国民生活の改善につながるものとはなっていない。それは経済政策が古い「おこぼれ経済」という発想の枠にしがみついているからだ。
 「おこぼれ経済」というのは、「大企業がうるおえば、そのうち国民もうるおってくるだろう」式の神話にすぎない。そうではなくて、国民がうるおってこそ、大企業も中小企業もうるおいということに経済の根本をおく必要がある。
 日本では、国内消費の最大勢力である個人消費を拡大させることによって、日本経済の生産力と消費力の均衡を回復していくべきだ。
 バブルの崩壊のあと、日本経済は長く停滞の時代に入っている。1991年から2011年までの20年間の年平均成長率は、わずか0.9%。この不活性さが20年以上も続いている。
 労働者の給与総額(ボーナスをふくむ)は、1997年をピークとして、減少している。1997年に月額37万円をこえた平均給与は、2012年には31万円ちょっととなり。この15年間で月5万余、年間で70万円近くも減ってしまった。その直接の原因は、非正規雇用の増大。
 日本経済の輸出依存度は14%で、世界185ヶ国のうち148位。高くはない。
 日本経済の成長を支えてきたのは、日本国民の個人消費だった。
 日本は、G7のなかで賃金が減少している唯一の国である。
日本の保険業界は、アメリカの大企業に乗っとられつつある。郵政民営化によって、結局、ゆうちょはアフラックに支配されつつありますよね。
 日本経団連会長を出している東レは、典型的な多国籍企業である。その海外生産比率は、センイで59%、フィルムで77%。グループ全体でも海外比率は45%を占めている。
 これでは、日本経団連が日本の一般庶民を大切にしようと思うはずもありませんね。
 政党助成金が始まったのは、財界からの政治献金を禁止するとの引きかえだった。ところが、日本経団連は自民党への政治献金を再開すると宣言した。これでは、国民をペテンにかけたも同然です。税金のムダづかいではありませんか。政党助成金は直ちに廃止すべきです。
そして、国政選挙に民意を反映するように、あまりに民意にかけ離れた国会議席構成をつくりだしている小選挙区制度なんか、すぐにやめて比例代表制を基本とする選挙制度へ大転換してほしいと思います。
(2014年6月刊。1100円+税)

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