弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年9月12日

ヘイトスピーチ

社会

著者  エリック・ブライシュ 、 出版  明石書店

 ヘイトスピーチがヘイトスピーチであることの決定的な条件は、それが「相手の属する集団」、それも「本人の意思では変更が難しい集団」にもとづいて、悔辱や扇動、あるいは脅迫が行われるということ。したがって、たんにその人個人を罵倒したり、汚い言葉を浴びせたとしても、それはヘイトスピーチではない。
 ホロコースト否定は、ヘイトスピーチの一種型であるが、それは、より普遍的な形でヘイトスピーチの一種型をなしている。
 日本は、ヘイトスピーチに対する規制がない点では、アメリカと同じだ。しかし、ヘイトクライム法や人種差別禁止法もないという点では、アメリカとも違う。要するに、日本はアメリカより遅れているということなのですね。
私たちは自由を愛し、レイシズム(人種差別)を憎む。しかし、この二つの価値が衝突したとき、私たちはどうしたらよいのか・・・。
 フランスの1972年法は、ヘイトスピーチを規制する。そこでは、エスニシティや国籍、人種、宗教などにもとづく中傷や名誉毀損だけでなく。それらにもとづいて差別や憎悪、暴力を煽ることも禁止された。
1960年代以降、他のヨーロッパ諸国もヘイトスピーチの規制を開始し、拡大した。1990年以降、ヨーロッパでは多くの法律が規制され、人種差別表現に対する規制が次第に拡大された。
 2006年にイギリスで成立した人種及び宗教増悪法では、人種憎悪の扇動とともに、宗教的憎悪の扇動も禁止した。
 1997年10月、ブリジット・バルドーはフランスに住むムスリムを脅威として表現したとして、1万フランの罰金を科せられた。その後、2004年6月にも、人種的憎悪の扇動で有罪となった(罰金5000ユーロ)。
 ホロコーストの否定を禁止する法律は、ヨーロッパ諸国の多くで世論の大きな支持を得ている。しかし、厳格に適用されると、人々が過去について異論を差し挟むことを禁止することになる。なーるほど、それも困りますよね・・・。
 アメリカは、人種差別団体について、結社の自由をより強く与えている。暴力その他犯罪的行為に関与していない限り、団体に対する国家的介入から実質的に保護されている。
民主的なドイツの半分以上の州議会に極右の議員がいる。驚くべきことだ。
 アメリカは、長い人種的暴力の歴史をもっている。
 自由とレイシズムの関係は、複雑である。ヘイトスピーチや人種差別団体を規制することは、必ずしもレイシズムを抑止することにはらない。むしろ、地下に潜って広がってしまう恐れすらある。
 社会に分断をもたらし、きわめて敵対的な反応を引きおこすような人種差別表現、団体、行為には、その欠点を埋め合わせるだけの社会的価値など、ほとんどない。
 フランスでは、ヘイトスピーチを主たる理由として有罪になった事例は、2005年から2007年のあいだに、年に208件であった。1997年から2001年までの5年間では年100件だったから、増加傾向にある。2007年の有罪判決をみると、139件が罰金刑(平均726ユーロ)、58件が執行猶予判決、3件が2ヵ月以下の実刑だった。
 アメリカとヨーロッパにおけるヘイトスピーチ規制の実際と問題が指摘されている本です。
(2014年2月刊。2800円+税)
 いつのまにか稲穂が垂れています。今年の夏は雨ばかり降って、蝉に気の毒な事態となりました。夏の終わりを告げるツクツク法師の声を聞いたかと思うと、一気にセミの季節は終わり、虫の音が響くようになりました。
 東京出張から帰ってきて、夜空を見上げると、満月が胱々と冴えています。仲秋の名月だったのです。

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー