弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年8月 7日

弁護士の失敗学

司法


著者  高中 正彦・市川 充 、 出版  ぎょうせい

 つい最近、恥ずかしながら弁護士賠償責任保険の適用を申請しました。控訴状のなかに当事者の表示が抜けているところがあったのです。もちろん私のミスだったのですが、運悪く年末年始の時期だったので、控訴期間内の補正が間にあわなかったのでした。私の方は上告したのですが、身内をかばう習性の強い高裁は棄却してしまいました(簡裁が一審だったのです)。
 弁護士過誤を避けるための5ヶ条。①受任事件を吟味する。②依頼者とのコミュニケーションに万全を期する。③ケアフルな執務を実践する。④知識・技能をアップする。⑤誰に対しても誠実に執務する。
弁護過誤を防ぐ7ヶ条。
 ①むやみに人を信用しない。
 ②こまめに報告する。
 ③常に冷静であれ。
 ④説明の腕を磨け。
 ⑤すべての事件で手を抜かない。
 ⑥おカネに魂を売らない。
 ⑦謙虚であれ。
 依頼を断る勇気をもつ。弁護士という職業は、どこから弾が飛んでくるかもしれない、危険一杯の職業である。
 依頼者は、えてして移り気なもの。そのような依頼者からの報酬で事務所を維持して生計を立てていかなければならないのが弁護士の宿命。
直感で、「あれ?」と思ったら、必ず、六法全書や基本書にあたること。この直感はかなりあたる。
裁判官は国家からの給与で生計を立てるのに対して、弁護士は依頼者からもらう弁護士報酬で生計を立てる。
ミスを防ぐには、多重の防止策が有用。事務員と連携して防止策を重ねる。場合によっては、複数の事務員に確認させる。
 「現場百回」、一度でも現場に足を運んでいると強い。
弁護士は、他人(ひと)の失敗でメシを食っている職業なのだから、弁護士が失敗しては、話にならない。性善説では、弁護士は生きていけない。
 いつでも、何年たっても、「思い込むな。初心に返れ」が必要である。
時間管理ができない人は、それだけでその人の評価を下げてしまう。
 必要でない原本は、なるべく預からないこと。
 依頼者層は、その弁護士の人格を写す鏡である。スジの悪い事件は、スジの悪い弁護士に自ずと集まってくる。
 「すべて先生(弁護士)におまかせします」というタイプは要注意。そんなことをいう依頼者は、決してすべてを弁護士に任せる気などない。
 弁護士のなかには、自分の依頼者はすべて正しく、相手方はすべて悪だと思い込み、断言するタイプがいる。
 本当に困ったタイプの弁護士がいます。一見すると、依頼者にとって「頼もしい」存在なのですが、適正・妥当な解決を遠ざけてしまって、紛争の泥沼のなかで、もがくばかりという危険もあるのです。その見きわめは、大変困難です。
 依頼者に、こまめに報告書を送るのが大切。できるだけ、その日のうちに送る。
私は、この報告書は、FAXとかメールでしてはいけないと考えています。あくまで郵送です。この間に、別の事件処理ができるからです。メールではレスポンスが早すぎます。
若いときには、小手先だけで要領よくやろうとするのではなく、徹底的に考え、調べて書面をつくるべき。若いときに努力しなかったら、弁護士としての成長はありえない。
事件ファイルは、弁護士の命である。きちんと整理しておくこと。
去っていった依頼者は追わない。
依頼者とのトラブルが生じたときには、気心の知れた弁護士に相談すべきである。
 依頼者に共感することはあっても、この依頼者は自分が絶対に幸せにしなければならないと思い詰めてはいけない。依頼者と手を取り合って泣いたりしてはいけないのだ。
 この40年間、私も思い返せば恥ずかしきことの数々でした。それでも、なんとか仕事を続けることができています。ありがたいことです。初心に立ち返ることの大切さを改めて認識することのできた本です。多くの若手弁護士に読んでほしいと思いました。
(2014年7月刊。3000円+税)

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