弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年8月 4日

サルなりに思い出す事など

生き物


著者  ロバート・M・サポルスキー 、 出版  みすず書房

 アフリカに単身わたって、ヒヒの群れに近づき長く研究を続けている学者の面白体験記です。といっても、著者は何度もアフリカ各地で怖い思いをし、死にそうになっています。それも、今となってはなつかしい笑い話として語ってくれるのです。
 著者の研究テーマは、ストレスの起因する疾病と患者の行動との関係を探ること。だから、ヒヒの群れを観察し、ストレス状況にあるヒヒを吹き矢で麻酔をかけて採血する。もちろん、仲間のヒヒに悟られないようにしなければいけない。危険と紙一重の命がけの研究だ。
 ヒヒは大規模で複雑な社会集団を形成する種。
群れのヒヒが食糧を確保するための狩りに費やす時間は、1日に4時間ほど。そして、ヒヒが誰かのエサになる心配はほとんどない。つまり、ヒヒは、通常、日中のおよそ6時間を、おたがいを精神的に煩わせることだけに使っている。まるで人間の社会と同じだ。
ヒヒの誰が誰と何をしたか。けんか、逢い引き、友だちづきあい、協力、恋愛...記録する。そして、ヒヒに吹き矢で麻酔をうち、ヒヒの身体の状態、つまり血圧、コレステロールのレベル、ケガの治癒率、ストレスホルモンの程度を調べる。
ヒヒの狩りは、無秩序に、勝手気ままにおこなわれている。最優位のオスは、いざというときに、群れをエサ場に導くことができない。
 捕食者に襲われたとき、最優位のオスは先陣切って戦い、子どものヒヒを守ろうとする。ただし、それは、その子どもが自分の子だと確信できるときに限る。それ以外の場合は、最優位のオスは、もっとも高く、もっとも安全な木の枝の上に陣取り。高見の見物を決め込んでいる。
 ええーっ、そ、そんな・・・。どうやって自分の子どもだと確信できるのでしょうか。人間だって我が子の判定は難しいというのに・・・。
オスのヒヒの地位は刻々と変化する。誰かが栄華を極めれば、他の誰かが権力を失い失脚する。ソロモンと名付けられたヒヒは3年間も最優位のオスの地位を守った。それは桁外れに長い。
メスのヒヒは母親の地位を受け継いでいく。姉が母親に次ぐ地位を獲得し、妹はその次の地位につき、やがて娘たちがそれぞれの地位で新たな家族をつくりあげる。
 近親相姦を防ぐため、ヒヒは、オスがもやもやした漂泊の思いに駆られて、群れの外へ出ていく。
 仲のいいオスのヒヒ同志が道で出会うと、挨拶がわりに、互いのペニスをひっぱりあう。
 高位のメスを両親に持つ幸運に恵まれた子どもは、低位のメスの子よりも、より早く、より健康的な発達をとげ、厳しい困難にあっても生きのびる可能性が高い。
 雄のヒヒにとって魅力的なメスの条件は、すでに何人かの子持ちで、その子どもたちが立派に育っていること。そのメスに繁殖力とよい母親になる能力があることを証明している。
雄のヒヒは、手強い敵に遭遇すると、他のヒヒに頼んで協力的な連合を形成することがある。
 ものごとが思い通りにならないとき、ヒヒたちがまず一番に考えるのは、どこかに憂さをはらせる相手はいないか、ということだ。戦いに敗れたオスたちは、周囲を探して大人になりかけの誰か、若者を追いかける。追いかけられた若者は苛立ち、大人のメスに突進し、メスは思春期の子どもをたたき、子どもは幼児を殴り倒す。ざっと15秒ですべてが終わる。
 これは、専門用語で「攻撃の置き換」と呼ばれる行動だ。ヒヒの攻撃行動のうちの信じられないほどの割合を、不機嫌な誰かによる、何の罪もない傍観者への八つ当たりが占めている。
 雄のヒヒに勤勉という言葉は似合わない。自分の欲望を抑えられないし、公共心もない。ついでに言えば、頼りがいもない。
 ヒヒの群れがついていくのは、年取ったメスのヒヒなのである。最優位のオスにつけ込む隙があるとき、頭の良いメスはすぐに気がつく。
60頭ほどのヒヒの群れの近くでずっと観察したのです。21歳のときから23年間です。すごいですよね。1頭1頭に名前をつけました。それも旧約聖書に出てくる名前です。
ひげもじゃの著者の顔写真が巻末にあります。ユダヤ人ながら無神論者を自認するスタンフォード大学の教授です。専門は生物学、神経科学、神経外科ということです。勇気があり、頭もすぐれている実践的な学者です。
この本を読んで、人間を知るためには、ヒヒも知る必要があると思ったことでした。
(2014年5月刊。3400円+税)

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