弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年7月24日

「新富裕層」が日本を滅ぼす

社会

著者  武田 知弘 、 出版  中公新書ラクレ

 いつのまにか、日本という国は中身がすっかり変わってしまったのですね。
 この本を読むと、アベノミクスを手放しで礼讃する人々がたくさんいる理由がよく分かります。私のまわりには不景気な話ばかりなのですが、世の中には、もうかって仕方がない人、ありあまったお金の使いみちが分からずに困っている人が、なんとたくさんいることでしょう・・・。信じられない思いです。
 日本には、世界的に見ても巨額の資産がある。個人金融資産は1500兆円に達している(2006年)。バブル末期の1990年には1017兆円だったから、わずか16年で50%増となった。「失われた20年」のあいだに、潤っている人間は、しっかり潤ってきたのだ。
 今の日本は億万長者が激増している。2004年に134万人だったのが、2011年には182万人になった。これは、世界全体の富裕層の17%を占める。世界の人口の2%でしかない日本人が、世界の富裕層の17%も占めている。アメリカの307万人に次いで世界第2位である。7人口比率から言えば、日本のほうが富裕層が多い。
 ところが、大金持ちへの減税が進んでいる。所得税率は、1980年に75%、1986年に70%、1987年に60%、1989年に50%、そして2010年には40%にまで下げられた。住民税のほうも、18%だったのが10%になっている。このため、最高時に27兆円近くあった所得税収入が、2009年には13兆円にまで激減している。
金持ちは、元からいい生活をしているので、収入が増えても消費はあまり増えない。結局、貯蓄にまわってしまう。
日本の金持ちの所得税には、いろいろな抜け穴があり、名目税率は高いけれど、実質的な負担税率は驚くほど安い。アメリカ、ドイツ、フランスは、どこもGDP比で10%以上の負担率であり、イギリスは13.5%なのに、日本はわずかに7.2%でしかない。アメリカの所得税の税収は、日本の7倍もある。
 つまり、日本の貧乏人はアメリカの貧乏人よりも多くの税負担をしている。
日本の相続税は大幅に減税された。1988年までに最高税率は75%だったが、2003年には50%に下がった。この結果、相続税は税収としての機能をまったく失った。
 ピーク時には3兆円あった相続税の税収は、いまでは1兆円となって、2兆円も減収した。
 しかも、この55%というのは名目上のことで、実際には、驚くほど税金は安い。
 今の日本では、富裕層とともに、大企業もお金をため込みすぎている。日本の企業の業績は、バブルの崩壊後も、決して悪くはなかった。バブルの崩壊後、国民の多くは、日本経済は低迷していると思い込まされ、低賃金や増税に耐えてきた。しかし、その前提条件は、実は間違いなのである。
日本の法人税は、たしかに名目上は非常に高い。しかし、いろいろ抜け穴があり、実際の税負担は、まったく大したことがない。総合的に考えると、日本企業の社会的負担は先進国のなかでは低いほうであり、もっと負担すべきだ。
法人税が減税されたら、サラリーマンの給料は下がる。だから、サラリーマンは、間違っても法人税の減税に賛成などしてはならない。
 企業は人件費を削って、配当にまわすという愚を普通に犯してきた。大企業は、この20年間で人件費を20%もカットし、内部留保金を100兆円以上、ふやしてきた。そんなことをすれば、お金の流れが滞るのはあたりまえだし、景気が低迷するのも必然だ。
賃金が上がっていないのは、主要先進国では、日本だけ。政府が最低賃金を上げてこなかったのは、財界の反発が強かったからだ。
 週40時間まともに働いても家庭を養っていけないような国で、まともな人材が育つわけがない。
 先進国のなかで、これほど非正規雇用がふえているのは、日本以外にはアメリカだけ。日本は非正規雇用の言い合いが35%にもなっている。
 日本で生活保護レベル以下の生活をしている人は1000万人以上いると推定されている。実際に保護を受けている人は、200万人なので800万人が生活保護の受給からもれている。
 人件費を削減すれば、短期的には企業の実績は上がるだろう。しかし、長期的に見れば、日本企業の破滅を招くことになる。日本の消費税は、経済を停滞させ、格差社会を助長する最悪の税金である。
 日本社会構造、そして、日本人の意識を根本的に変革する必要があると思いました。
 とても分かりやすい本です。ご一読を強くおすすめします。
(2014年2月刊。780円+税)

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