弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年7月19日

ちばてつやが語る「ちばてつや」

社会


著者  ちば てつや 、 出版  集英社新書

 「ちばてつや」というと、『あしたのジョー』です。「週刊少年マガジン」で連載が始まったのは、私が東京に出て1年たとうとした1968年1月のことです。6人部屋の大学の寮に入って楽しい日々を過ごしていました。誰かが買ってくる週刊誌を、みんなでまわし読みしていたのです。矢吹丈と力石徹のリング上の決戦に夢中になっていました。毎週の発売日が待ち遠しかったものです。
 私は、「ちばてつや」の絵が大好きです。登場人物の顔が丸顔で、なんだか、ほのぼのしているところがいいのです。
「ちばてつや」は、実は、終戦時に6歳で、生命からがら満州から引き揚げてきたという体験の持ち主です。ですから、筋金入りの反戦・平和主義者なのです。それを知って、私は、「ちばてつや」がますます好きになりました。だから、私は戦争大好き人間の安倍首相にとりいる百田尚樹が大嫌いです。
 子どもの読む戦記ものマンガでは、どれも主人公が格好いいヒーロー漫画になっている。それが少し心配だ。こんな描き方をしたら、読んだ子どもが「戦争は格好いい」と思い込んでしまうのではないか。戦争をスポーツのように描いていいものだろうか・・・。
 私のなかには、戦争で無残に死んでいった若者たちへの追悼の思いが深くあった。そんな戦争とは一体何なのかと、リアルに問いかけたかった。戦争というものは、絶対にやってはいけないと少しでも伝えたくて、体験記を描いた。そう言う気持ちを忘れてはいけないと、私は、今でも毎朝、水を一杯コップに入れて追悼している。
 著者が『あしたのジョー』を描きはじめたのは28歳のとき。私が読みはじめたのは18歳ですから、なんと、10歳しか年齢は違わなかったのですね。そして、5年間の連載が終わったとき、著者は34歳になっていた。
 プロの漫画家になるには、読む人をワクワク、ドキドキさせるにはどうしたらよいか、そこで苦労しなくてはいけない。とても苦しい作業だが、それこそが漫画家という仕事なのだ。
読者をワクワクドキドキさせるためには、何が一番重要か。まず、描く人が「根」を張ること。「根」というのは、漫画という花を咲かせるために必要な感性やアイデア、知識、教養のこと。その根を自分という土壌の中にいかに、張りめぐらせるか。それが創作の根幹である。
 いろいろな本を読み、映画をみ、伝記や資料を調べて読み解く。それからドラマを見つけ、人生や哲学を感じとる心を養うこと。文学も美術も音楽も、ときに思いもよらない創作のヒントを与えてくれる。
 詩情あふれる、さまざまな名曲を聴いて感動する気持ちが持てなければ、漫画においても情景描写はできない。あるいは好きな詩の一節に思いを馳せ、心に残る名画をイメージしてみる。そうした作者の心の軌跡が、漫画の線の一本一本を生き生きとさせ、読者の心にも響いていく。
 こんなことは漫画とは関係ないとは思わずに、好奇心のままにいろんな分野に耽溺(たんでき)してみることだ。
 味わい深いコトバが満載の、すばらしい「ちばてつや」の本です。
(2014年5月刊。760円+税)

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