弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年6月 1日

もう一度、天気待ち

社会


著者  野上 照代 、 出版  草思社

 あの黒澤明監督の下で働いていた著者による大スターたちの生態は興味深いものがあります。
 クロサワがミフネの演技にわずかにしても不満を抱いたのは、おそらく『赤ひげ』が初めてだろう。
 三船敏郎の主演する映像では、なんといっても『七人の侍』ですよね。かなり前ですが、福岡の映画館でリバイバル上陸があったのを見ました。やはり大きなスクリーンで見ると迫力が違います。家庭のテレビ画面とは迫力が違います。仲代達代と三船敏郎が出演する『椿三十郎』にも度肝を抜かれました。血しぶきのすさまじさに圧倒され、声も出ません。
 三船も仲代も、セリフを手書きで書いて、丸暗記していたようです。やっぱり、すごい努力のたまものなのですね・・・。
 しかし、三船と仲代はロケ先で口論し、その後は競演していない。
 三船敏郎の酒乱は有名だった。日頃は、とても気をつかうので、お酒を飲むと、その反動で、爆発したのだった。
 『七人の侍』で撮影現場になったのは、東宝撮影所の前の田圃。今は、団地になっている。雨の合戦にしたのは、西部劇には雨がない。よし、雨で勝負だと黒澤監督が考えたから。撮影したのは2月。田圃には氷が張り、消防車8台を借りて、ホース40本。足もとは、膝まで埋まる泥んこで、馬が暴れるから身動きもできない。三船敏郎は裸同然で寒さに震えて、歯をガチガチいわせていた。
 『七人の侍』には、老人ホームの素人にも登場してもらっているとのこと。映画のお婆さんたちがそうです。
戦後まもなく、ヒロポンが禁止されていなかったころ、撮影現場では、ヒロポンが堂々と注射されていたという話には驚かされます。ヒロポンは、今の覚せい剤みたいなものでしょう。もちろん、今では厳禁です。
ガチンコは、画と音をあわせるための唯一の手がかりだ。画面と録音された音をあわせると、セリフと物音が同時に再現される。
 三船敏郎のように周囲に気を配ってばかりいる人には映画監督はできない。優れた映画監督というのは、たいてい我がままで、他人が何を言おうと気にしない。自分が撮りたい対象をつくるためには、他人の迷惑なんかかえりみないという人なのだ。
 さすが、世界的巨匠であるクロサワ監督の身近にいた人による鋭い観察だけある本でした。
(2014年2月刊。1900円+税)

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