弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年5月13日

上野千鶴子の選憲論

司法


著者  上野 千鶴子 、 出版  集英社新書

 私と同世代の著者は、「おひとりさま」で、女性学の研究者として有名ですが、自分は護憲派ではなく、もちろん改憲派でもない、選憲派だと言うのです。選憲派って、耳慣れない言葉です。いったい、何なんだろう。そう思って読みはじめました。
 選憲派。同じ憲法を、もう一度選び直したらいいじゃないの・・・。
 憲法は変えなくてはならないものではない。人生の選択だって、1回限りとはとは限らない。節目で、何度でも、もう一度選び直したらいい。
 民主主義には愚行権という権利もある。間違う権利も主権者の権利の一つだ。
 選憲論は、もし憲法を選びなおすのなら、いっそつくり直したいというもの。
 そのとき、どうしても変えてほしいのが、1章1条の天皇の項。象徴天皇という、わけの分からないものは、やめてほしい。これがある限り、日本は本当の民主主義の国家とは言えない。1条改憲。これは選憲の一つの選択肢だ。
 危険な首相が登場する確率は、危険な天皇の登場する確率の1000倍。この危険を無力化する可能性は10万分の1。
 選憲のもう一つの提案は、日本国憲法の「国民」を、英文のように「日本の人々」「日本に住む人々」に変えること。つまり、日本社会を構成し、維持しているすべての人々のことにする。
 歴史が教えているのは、国家は国民を犠牲にしてきたこと。軍隊は、国民を見捨てて、国家を守ってきた。軍隊は、敵だけではなく自国の国民にも銃を向けてきた。それどころか、軍隊とは国家を守るために、国民は死ねという、究極の「人権侵害」の機関なのだ。
 私たちが本当に守らなければいけないのは、国家ではなくて人間だ。
 昨年(2013年)9月の横浜弁護士会の主催するシンポジウムでの講演をもとにする本なので、とても読みやすく、分かりやすい本になっています。桜井みぎわ弁護士が講演会の実現に骨を折ったことも紹介されていて、その桜井弁護士のすすめから読んで、こうやって書評を書いています。定員1100人の関内ホールが満杯になったというのですから、すごいものです。
 いつものように切れ味するどい話がポンポン飛び出し、聴衆を圧倒したのだと思います。初めて知りましたが、1981年に発表された「琉球共和社会憲法C案」なるものがあるそうです。琉球(沖縄)は、戦後ながくアメリカ軍の統治下にあり、日本人が沖縄に行くのにビザが必要だったのです。沖縄の人々は祖国復帰運動を大々的にすすめていきますが、結局、ときの自民党内閣は、アメリカと「密約」を結んで、表面上は日本に施政権を返還しました。でも、今なお、沖縄には、たくさんのアメリカ軍基地があります。
 その前文は、この「密約」があるなかで沖縄が日本の一部になったことを知り、日本国民の忘れっぽさを皮肉る内容になっています。
 いろいろ考え直すところが多い、刺激にみちた本でした。
(2014年4月刊。740円+税)

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