弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年4月26日

スコールの夜

社会


著者  芦崎 笙 、 出版  日本経済新聞出版社

 現役の財務省キャリア官僚の小説です。日経新聞で賞をとったということと、若いころに福岡県内で財務署長をつとめていたという縁から、早速、読んでみました。
東大法学部卒の女性が大手銀行に総合職として入ってエリート・コースを歩いているのですが、リストラ最前線に立たされて苦悩するというストーリーです。
さすがに賞をとったというだけあって、人物描写は読ませますし、銀行内部のリストラをめぐる攻防戦、そして人事攻争も読みごたえ十分です。なにより、主人公のエリート女性への感情移入がスムースなのは見事だというしかありません。私も、こんな小説を描いてみたいと思い、ついつい反省させられました。私なんか、いつも、読み手から、感情移入しにくいとか、情景描写がなっていないという、耳の痛いコメントばかりなのですから・・・。
それでも、あえて著者に注文をつけるとすれば、やっぱりキャリア官僚のナマの生態を小説として描いてほしいです。官僚ではなく銀行員とするのもいいけれど、ぜひとも本家本元のキャリア官僚を主人公とした小説に挑戦してください。大いに期待しています。
銀行内部には、いつも汚れ仕事がある。それは総会屋対策であり、暴力団対策である。それ相応のお金をつかませて、お引きとり願う。そして、頭取を初めとする役員の女性スキャンダルのもみ消しも総務部の重要な仕事だ。
うひゃあ、たまりませんね、こんな仕事・・・。宮仕えの辛さですね。
リストラになると、もっとすさまじいことになります。心神症にならないほうが不思議ですね。リストラされるのは中堅幹部以下の社員です。トップと、その周辺は安泰。ただ、派閥抗争には巻き込まれる。
いやはや、銀行内部の人事抗争はひどいものがあるようです。今後の健筆を大いに期待しています。
(2014年3月刊。1500円+税)

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