弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年4月 8日

ヘイト・スピーチとは何か

社会


著者  師図 康子 、 出版  岩波新書

 今の日本は、残念なことに、ヘイト・スピーチが蔓延しています。その対象は、在日朝鮮人だけではありません。ブラジル人など、さまざまな外国籍の人々、そしてアイヌや障がい者、性的マイノリティもターゲットになっています。
 ただ、著者が「沖縄の先住民族」も対象としているのには、いささかの違和感がありました。「沖縄の先住民族」って、一体、いるのでしょうか.アイヌのような人々が沖縄にいるとは思えないのですが・・・。同じような主張をする人がいるのは私も知っています。しかし、どれだけ客観的な根拠があるのか、私には疑問です。もし間違っていたら、ごめんなさい。この主張を裏付ける文献を教えていただければと思います。
 東京でのオリンピック開催が決定される直前は、排除デモは行われなかった。あんな排外デモがやられている都市(東京)で、和の精神を前提とするオリンピックが実施できるのかという疑問を封殺するための措置がとられていた。
 石原慎太郎・東京元知事は、ほとんどあらゆるマイノリティを攻撃対象としている。日本国籍をとろうととるまいと、朝鮮人や中国人は信頼できないという、悪質かつ差別的な煽動を好んで実行してきた。
在特会が攻撃するような「在日特権」というものは存在しない。
 ヘイト・スピーチは、単なる「悪い」「不人気」「不適切」「不快」な表現ではない。ヘイト・スピーチは人権を侵害する表現であり、許してはならないものである。ヘイト・スピーチは、それ自体が言動による暴力である。マイノリティの尊厳、平等権、脅迫を受けずに社会に参加して平穏に暮らす権利、これらを直接的に侵害する。ヘイト・スピーチ自体が、マイノリティに実害をもたらすものである。
 少し前まで東京都知事だった石原慎太郎の責任は、本当に重大だと思います。彼には、少なくともヘイト・スピーチを煽った責任があります。
 西日本新聞の一面下の本の広告として、ヘイト・スピーチではありませんが、韓国人をバカにしたような本の広告が何回も大きくのりました。売れるためなら、どんな本でも書くという著者がいて、出版社があります。それを新聞社が後押ししているというのは情けない現実です。でも、それは、差別の煽動であり、戦争への一里塚ではないでしょうか。なんで、もっと仲良くしようと呼びかけないのでしょうか。
 それぞれの国には抱えている大きな問題があるのです。日本だって、韓国だってもちろん中国だって、たくさん困難な問題をかかえています。それを嘲笑するようなことを許してはいけません。自分が苦しい境遇に置かれていると、ついつい他人を引きずり落としたくなるものですが、それは間違いなのです。ヘイト・スピーチは犯罪です。
(2013年12月刊。760円+税)

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