弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年3月12日

統合失調症の責任能力

司法


著者  岡江 晃 、 出版  インプレスコミュニケーションズ

 人を殺しても、責任能力がない人については無罪になることがあります。
 その場合には、刑務所ではなく、精神科の病院に収容されます。では、なぜ無罪になるのか。または、罪が軽くなるのか。その点を精神科医として刑事被告人の精神鑑定を91件も手がけた著書が、実例を通して解説した本です。とても分かりやすく、納得のできる鑑定意見だと思いました。
 精神障がい者が犯罪をおかしても罰されないというのは、昔の大宝律令にも定められている。昔の人も、すごいですよね。
起訴前の精神鑑定は、今では年間400以上ある。これは裁判員制度が始まってから急増した。その前は年に150件ほどだった。
裁判になってからの精神鑑定も年に百数十件ある。裁判で心神喪失が認められるケースは急減している。昭和40年代に19人から30人あったのが、平成12年(2000年)以降は、年にせいぜい11人で、ゼロの年もある。
 裁判所は、精神鑑定を尊重すると言いながら、実は、「検討が不十分」とか「推論過程に問題がある」などの、理由をあげて、精神鑑定の結論(責任無能力)を採用しないことがある。
 多くの精神科医は、現在の裁判所が、責任無能力をほとんど認めず、それだけ限定責任能力をみとめ、統合失調症の患者・被告人に対して厳罰でのぞむことには批判的である。
 以下は、著者による精神鑑定の実例です。
○  統合失調症が急激な重症化に向かっているとき、その精神内界に起きている重篤な精神病理は軽視すべきではない。
急激に重症化しへ向かっているときの幻覚妄想の影響力は、きわめて強いものがある。
○  本件犯行の2時間にわたって激しい興奮状態、衝動性、攻撃性を持続した。にもかかわらず、被告人の表情は終始「虚ろ」だった。そして、本件犯行直後からは、一変して、正面をボーッと見ているのみで、周囲のことに無関心な様子を示した。
緊張病性興奮とは、個々の動作の関連が失われ、意思の抑制を逸脱した衝動行動が頻発する。絶えず動き回り、大声をあげ、手当り次第に物を壊し、人を攻撃する。
 躁病性興奮とは、行為の消長が状況の影響を受けない点で異なっている。
 重症の急性増悪であっても、部分的に普通に見える言動があることは、しばしば認められる。
 このケースでも刑務所に収容されたら、著しく急速に悪化したと考えられる。ただし、精神科の病院で専門的に治療しても徐々に人格水準が低下する可能性は高く、将来は悲観的にならざるをえない。
 統合失調症と責任能力について、著者は次のようにまとめています。
 重症の統合失調症患者は責任無能力である。中等症ないし軽症の統合失調症だと、限定責任能力が認められる。
 中等症ないし軽症であっても犯行が幻覚妄想に関連なく、人格変化も軽症なら、完全責任能力もありうる。
 予後として重症化(とくに人格水準の低下)が予測されるならば、それは情状として主張すべきことである。
 実例を通した解説なので、とても実践的な解説書になっています。
 
(2013年11月刊。1800円+税)

 日曜日の午後、庭で草いじりをしていると、ふと何か気配がしました。頭を上げると、つい2メートルほど先の枝に小鳥が留まって、私を見ているのでした。あれっ、ジョウビタキのようだけど、ぷっくらした茶色のおなかじゃないし、変だなと思いました。あとで図鑑を見てみると、メスのジョウビタキでした。背中に、白い斑点が2つあります。ずっと私のまわりを、「見て、見て」という感じでちょんちょん飛びまわっていました。いよいよ3月も半ばとなり、お別れの挨拶にやって来てくれたのでしょう。
 梅の花が終わりかけ、モクレンの白い花をあちこちに見かけます。小さなランプを、たくさん天に突き出した格好で、まるで豪華なシャンデリアです。

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