弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年3月14日

ショック・ドクトリン(上)

アメリカ


著者  ナオミ・クライン 、 出版  岩波書店

 シカゴ学派が、チリのアジェンデ大統領を殺害した軍部クーデターを支えたということは聞いていましたが、シカゴ学派は、チリだけでなく世界中の国々を徹底して荒らし回ったことを本書で深く認識しました。
私も名前だけは知っている経済学者のミルトン・フリードマンという人は、そのあこぎさで許すべからざる人物だと思いました。なんでも自由、すべての規制を撤廃して権力者に自由にやらせたらいいなんて、とんでもない考えの持ち主です。それでは、大金持ちが奴隷を所有するのまで自由だとして、認めることになってしまいます。
 2001年の前には、とりに足りない規模だったセキュリティー産業は、今では2000億ドル規模の一大産業へと成長した。
 そして、大金が動くのは、国外の戦争においてである。イラク戦争のおかげで、アメリカの兵器産業は大もうけした。そして、アメリカ軍部の維持そのものが、世界でもっとも急成長するサービス経済の一つになった。
 今では、アメリカ軍は戦地にバーガーキングとピザハットを引き連れて行っている。
 ハリバートンの株主にしてみたら、20億ドルの収入をもたらしてくれたイラク戦争は、万々歳というわけだ。
 ブッシュ政権は内部者による拷問を可能にした。9.11以降、ブッシュ政権は、拷問する権利をだれはばかることなく要求した。ラムズフェルド国防長官は、アフガニスタンで拘束された囚人は、捕虜ではなく、「敵性戦闘員」なので、ジュネーブ条約は適用されないとした。そして、一連の特殊尋問行為(つまり拷問すること)を承認した。
 拷問の新しい定義は、臓器不全のような重大な身体的損傷に匹敵する痛みをともう場合に限られるとしている。すると、アメリカ政府は新しく開発した方法で自由に拷問できる。
 シカゴ学派は、景気の後退や不況を意図的に引きおこすことを推奨する。それは大量の貧困者を発生させる冷酷無比の考え方だ。
 チリは、シカゴ学派の理論に厳密に従っていたにもかかわらず、チリ経済は破綻した。そして、少数のエリート集団が、きわめて短時間に大金持ちになった。
 ミルトン・フリードマンは、1976年のノーベル経済学賞を受賞した。しかし、フリードマンの理論を実行に移したチリにおいて直面した現実は、あまりにも痛ましいものだった。
 フリードマンの唱える自由市場主義を実行に移そうとしたのは、自由が著しく欠如した独裁政権だけだった。
 フリードマンによれば、自由貿易が実現すれば、職を失った人には新たな職が創出されるはずだった。しかし、現実には、20%の失業率が30%にまで上昇した。ごく少数のエリート階級がますます富裕になる一方、労働者階級に属していた国民の大部分が経済からはじき出されて、無用の存在になってしまった。
 1999年、世界各国政府の閣僚のうち、シカゴ学派の出身者が25人いた。中央銀行の総裁としては10人。
フリードマンは、規制のない盲活動の自由を重視し、政治的自由は付随的な者、あるいは不必要なものとさえみなしていた。こうした「自由」の定義は、中国共産党指導部で形成されつつあった考え方とうまく合致した。すなわち、経済を開放して、私的所有と大量消費を促す一方で、権力支配は維持し続けるという考え方である。
 そうすれば、国家の資産が売却されるにあたって、党幹部とその親族がもっとも有利な取り引きをし、一番乗りで最大の利益を手にできるという筋書きだ。
中国には、低い税金と関税、賄賂のきく官僚、そして何より低賃金で働く大量の労働力がある。そして、その労働者たちは、残忍な報復の恐怖を体験しており、適正な賃金や基本的な職業の保護を要求するといったリスクを冒す恐れは、長年にわたってないと考えられてきた。
 シカゴ学派の果たしてきた具体的な役割が、小気味いいほどの鋭い切り口で暴露されています。こんな大金持ち万歳の学説を経済学者がもてはやすなんて、とても信じられませんでした。
(2012年10月刊2500円+税)

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